ステルンの『野生の樹木園』のこと

 今夜のラジオ深夜便は、明石 勇アナウンサーの担当日である。ないとガイド「読書で豊かに」を聴いた。
 今月のゲストは小池昌代さんや青山南さんではなく、詩人の阿部日奈子さんだった。阿部さんの紹介する本は三冊。
 最初の一冊は、梶山季之の『族譜・李朝残影』*1岩波現代文庫)。日本の植民地であった朝鮮の京城(今のソウル)に生まれ、十五歳まで育った梶山季之の自伝的な作品を含む小説集。この本は、今月の十七日に出たばかりの本である。
 『譜族』は、創氏改名がテーマになっている。舞台は水原で、七百年の長い譜族をもつ地主の家族があって、当主が創氏改名に抵抗して、自分の代で名前を変えられないんだと訴えるが、役人の説得で改名に同意するが、その夜、家族と食事をした後、石を抱いて一人井戸に飛び込んで死ぬ。
 『李朝残影』も歴史と人間の関係における悲劇なのだが、韓国で梶山季之の『譜族』と『李朝残影』のふたつは、映画化されているという。
 二冊目は、鈴木道彦の『越境の時 一九六〇年代と在日』(集英社新書)。鈴木さんの自伝的な本で、日韓の在日の歴史と人間の関係における悲劇的な事件をめぐって、筆者は犯人の獄中からの書簡集を読んで、大変な衝撃を受ける。鈴木さんが、その自分の感情からたどり着いた思いに、阿部日奈子さんも感銘したそうだ。
 三冊目は、イタリアの作家マーリオ・リゴーニ・ステルンの『野生の樹木園』志村啓子訳(みすず書房)である。
 ステルンには、他に『雷鳥の森』(みすず書房)があり、イタリアの北東部アルプス山麓の町アジャーゴに生まれ、そこに住み故郷の大地に根ざした小説を書き続けている人。
 『野生の樹木園』は、樹木をめぐる本で、紹介の話を聴いていると、面白そうである。

野生の樹木園

野生の樹木園