オリヴェイラ監督の『過去と現在 昔の恋、今の恋』

『過去と現在 昔の恋、今の恋』

 日本ポルトガル修好通商条約150周年を記念した「ポルトガル映画祭2010」が映像文化ライブラリーで始まった。
 26日、マノエル・ド・オリヴェイラ監督の映画『過去と現在 昔の恋、今の恋』(1972年、115分、カラー)を観る。観客は30人ほど。
 パンフレットに、
 

監督・脚本:マノエル・ド・オリヴェイラ 撮影:アカシオ・アルメイダ
出演:マリア・ド・サイセット、マヌエラ・ド・フレイタス、ペドロ・ピニェイロ
長篇劇映画第三作。ヴィンセンテ・サンシェスの同名戯曲を監督が自ら映画用に翻案。『フランシスカ』に至る「挫折した愛の四部作」の第一部にあたる。現在の夫に心を開かず、事故死した最初の夫への想いを募らせる妻ヴァンダを中心に、過去と現在、死者と生者の間を交差する奇妙な愛が描かれる。

 
 冒頭、メンデルスゾーンの「結婚行進曲」の曲が厳(おごそ)かに高らかに聞こえて来る。
 音楽が鳴り響く冒頭のモノクロの映像に青い色のタイトルやクレジットが鮮やかだ。
 裕福な豪邸に住む夫婦、妻のヴァンダは再婚した夫フィルミーノとは心を通わせることなく拒絶して、交通事故で亡くなった前の夫リカルドを慕っている。
 死者を慕い生者である夫に冷たい妻の態度に夫のフィルミーノは絶望して自殺を図るのだった。
 ベランダから飛び降りようとするのを庭の手入れをしていた庭師に見られ、あわてて自殺を取りやめようとするフィルミーノのしぐさが可笑しい。深刻な場面での滑稽なしぐさ! 
 雇っているメイドや運転手や門番らのしぐさの細部にもにやりと笑いを誘うシーンがある。
 まだ死んでもいないのに、棺桶を部屋へ運び込ませ、ビリヤードの台に傾けて置くというシーンがブラックな笑いを誘う。
 夫を亡くし、何度結婚しても前の死者の夫を慕い、生者の夫を愛さないというヴァンダの習癖に振り回される「夫」という男たちを皮肉を込めて描いている。オリヴェイラ流の静謐なコメディが楽しめた。面白い映画である。
 ラストも、(皮肉を込めて)メンデルスゾーンの「結婚行進曲」の曲が、教会での結婚式のオルガンで鳴り響くのだった。