新藤兼人の『濹東綺譚』

濹東綺譚

 28日、新藤兼人監督の映画『強虫女と弱虫男』の後、『濹東綺譚』(1992年、近代映画協会テレビ東京、116分、カラー)と『悲しみは女だけに』(1958年、大映、105分、白黒)の二本を観る。

 『濹東綺譚』について、4月プログラムに、
 

新藤監督は、永井荷風の代表作『濹東綺譚』を、荷風自身を主人公として脚色。戦争の時代を背景に、人の心の優しさをにじませながら、玉の井の女お雪と荷風の恋を描く。

 出演は、津川雅彦墨田ユキ、宮崎淑子、乙羽信子杉村春子
 「断腸亭日乗」の日記を元に、偏奇館に住む荷風津川雅彦)が玉の井に住むお雪(墨田ユキ)の土地に通う二・二六事件のあった昭和十一年ごろから、昭和二十年三月十日の空襲で偏奇館の焼失を体験し、晩年の文化勲章を受章して亡くなるまでを描いている。
 サングラスをかけた置屋の女将を乙羽信子が演じている。
 偏奇館で荷風が食べるサンドイッチなど当時としてはずいぶんと洋風の食事である。
 またお雪の置屋で氷小豆やお茶漬けを食べる荷風だが、じつに美味しそうだ。
 杉村春子荷風の母親役で、偏奇館を訪れるが、息子(荷風)とのおっとりした味のある会話がさすが貫禄の演技である。
 ラストに、荷風がカツ丼を食べる情景もある。
 「断腸亭日乗」からのこういったエピソードが作品にふくらみを与えている。