『夢声戦中日記』から

 年末から新年にかけて、徳川夢声著『夢声戦中日記』を読む。
 『夢声戦中日記』は中公文庫版で、『夢声戦争日記』(全五巻、一九六〇年、中央公論社刊)を底本として、昭和十六年十二月より昭和二十年三月までの日記から主要記事を抜粋し再編集したものである。
 解説を濱田研吾氏。

 昭和十七年五月、徳川夢声は芝居をもって巡業に東京から九州へ向った。
 日記より一部引用すると、

 

   五月

 四日(月曜 晴 薄暑)
 何かまた大きな食物の土産があるといけないので、今度は大ケース(ロンドン行、北支満州行の時使用せるもの)に欲ばって大ボストンバッグをそのなかに納め出発。姐やが駅まで持って行く。少し遅れ、静枝、俊子に送られて家を出る。この少し前警戒警報が発令されていた。ほんの少々不安と言えば不安、みな朗らかである。留守中吾家に爆弾が落ちるなど想って見ても一向ピンと来ない。
 前十時廿分の東京発。一行、丸山章治、中村メイコ、チエコ、清水ミサ子。沼津ニテ弁当、茶。メイコちゃんのお蔭で塩せんべい、キャラメル、アップルパイなどに有付。パイ殊にウマし。夕食は強飯を分けて貰う。
 荻窪駅でふと俳句が作りたくなり、今日は一日中作句した。大津へ着くまでに百句近く――俳句になっているかどうかは別として――近来の記録である。  38〜39ページ