映画『階段通りの人々』

映画『階段通りの人々』

 「マノエル・ド・オリヴェイラ監督追悼特集」からの一本。
 『階段通りの人々』(1994年、1時間36分、カラー、35ミリ、日本語字幕)を観る。
 フィルム提供:東京国立近代美術館フィルムセンター

 出演、ルイス・ミゲル・シントラ、ベアトリス・バタルダ、フィリペ・コショフェル。


 

リスボンの街路を舞台にした群像劇。「すべての私の映画同様、『階段通りの人々』は人生から沸きだした特別な何かだ。それは貧しく周縁にいる、ほとんど忘れられた人々の目を通した真の人間性のポートレイトだ。これは、1920年代の映画、初期映画への回帰を示す映画なのだ」。(特集パンフレットより)

 お金を得ることのできる箱を持つ盲目の中年男(ルイス・ミゲル・シントラ)とその娘(ベアトリス・バタルダ)と箱のお金を管理している娘婿(フィリペ・コショフェル)の強欲な欲望が、箱が盗まれたことから巻き起こる悲喜劇を描いた舞台劇風の映画。

 冒頭の朝の階段の街路で放尿する中年女にまず驚かされる。
 登場する人物が、近所の居酒屋の亭主、元音楽教授のギター弾きの男、遊び人、煮豆売りの中年女、素人絵描き、それを眺めているアメリカ人の観光客の女二人、孫の男の子を靴磨きに働かせる強欲なおばあちゃん、子供連れの偽の盲人など胡散臭いのだが、それも魅力的だ。
 路上で煮豆を売る中年女を演じる役者が巧い。ラストで焼き栗を売っている光景も印象的である。

 物語は、箱が盗られたことに怒った娘婿は遊び人の男を刺殺してしまう。盲目の中年男は娘からの仕打ちに絶望し自殺する。
 一人残った娘が、後日、聖女として階段通りへ再び戻って来た光景には救われた。