昨年の新刊で、池内紀著『ことば事始め』(亜紀書房)を年末から正月にかけて読んでいました。もう一冊が編集グループSUREの『海老坂武のかんたんフランス料理』でして著者の海老坂さんのフランス料理や草野球チームの話が興味深かったです。サルトルの『家の馬鹿息子』の翻訳裏話なども。フローベールの小説をめぐる黒川創さんとの談話も。
『ことば事始め』では、「シャンパン」と題したエッセイが印象に残りました。
さて、今年も未読の池内さんの本を読むことにしましょう。
《姪の結婚式に出たら、乾杯はシャンパンだった。テーブルごとに一本ずつあてがわれ、ボーイさんが栓の針金をほどいて、こころもちコルクをゆるめた。(中略)
へんな飲み物である。栓を抜くときがいちばんの「ごちそう」で、噴き出す泡が中身なのだ。へんてつもない甘味飲料である。ワインらしからぬ甘さは醸造の最後の段階で砂糖入りの混合液を加えるからで、醸造業者は「門出のリキュール」と称している。そんな異端のワインが、どうして世界中の祝事に欠かせない飲み物になったのだろう? 》 145~146ページ
《いいことばかりでもなかった。シャンパーニュの人々にとって、ロシア革命は忘れられない出来事だった。ロシア貴族をヨーロッパ最大の上得意としていたからで、革命で一気に大顧客を失った。ロシア共産党はシャンパンを排撃して、ウォッカを愛国的な飲み物として推奨した。シャンパンメーカーは ロシア貴族には信用貸しで販路をひろげた。その没落とともに数百万本の売掛金が踏み倒された。》 148~149ページ