「白水社の本棚」から

 届いたばかりの「白水社の本棚」2025冬号の連載「愛書狂」(岡崎武志)を読んだ。

 《年柄年中、本から本へ雑食していると、ときに文学の神様に導かれるように偶然が重なることがある。》、という冒頭の文に引き込まれるように読むと、《井の頭線での移動の車中で読む本として選んだのが、古本で買ったニ〇〇六年三月号『文學界』。目当ては蓮實重彦の候孝賢論「寡黙なイマージュの雄弁さについて」だったが、車中で読みふけったのは車谷長吉の「世界一周恐怖航海記」(第一回)。》

 とあり、第一創作集『鹽壺の匙』の誕生をめぐる担当編集者、川嶋眞仁郎氏のエピソードが紹介されている。

 師走から新年にかけて読んでいたのが、江藤淳蓮實重彦の対話本「オールド・ファッショ」(中公文庫)だった。東京ステーションホテルにての「普通の会話」である。

 食堂で、食事しながらの歓談が面白い。食後のコーヒーを飲みながらつづく。ホームを出て行く電車の音に耳を傾けながらブランデーをのみつつ歓談はつづく。

 「チョコレートの時間」では、テーブルの上のチョコレートの箱の包装紙をはがしながら歓談はつづく。この日は二人、それぞれの部屋に戻りホテルに一泊し、翌朝の朝食から「朝の対話」の歓談がつづく。文庫版の裏表紙にあるように、《文学・都市・映画と、時に人生を偲ばせ、時にスリリングに語るその姿は、時間の持つ意味・会話の豊饒を満喫させるーーー。》

 昭和六十年四月八日~九日

 場所・東京ステーションホテル

オ-ルド・ファッション / 江藤 淳/蓮実 重彦【著】 - 紀伊國屋書店ウェブストア|オンライン書店|本、雑誌の通販、電子書籍ストア