谷崎潤一郎からの贈物

ムクドリ

 きのう夕方、電線に鳥が群がっていた。さえずりながら数百羽の鳥が電線にいる光景に驚いた。ムクドリかな。下から眺めていたら、いっせいに夕闇が迫り来る晴れ渡った空へ飛び立った。そのにぎやかさ、さえずりもあっという間に消え去った。
 その空に、ぼつぼつ〈冬のダイヤモンド〉の星が見られた。シリウス、オリオン座のリゲル、こいぬ座プロキオン、この三つの星は見分けられた。
 1月のNHK教育テレビで「私のこだわり人物伝」というのがあった。鹿島茂さんが山田風太郎の小説の特徴やその手法などを語られていて、うんうんと納得したものだった。
 その山田風太郎に『ラスプーチンが来た』という小説がある。*1
 ロシア皇太子襲撃事件をめぐって、明石元二郎とロシアの妖僧ラスプーチンとの対決というストーリーに、さまざまな明治人が登場する。二葉亭四迷長谷川辰之助)、蠣殻町の印刷所「谷崎活版所」の二歳八ヶ月の谷崎潤一郎森林太郎森鷗外)、内村鑑三、津田梅子、三十歳のロシアの作家チェーホフ、そしてロシア皇太子ニコライなど。日露戦争の前哨戦とでもいえる話が展開されていて面白いし、明治という時代が身近に感じられる。
 余談だが、多田道太郎の『自分学』(朝日出版社)を読んでいたら、谷崎潤一郎の話があった。〈なまいきな「視覚」〉という章で、『春琴抄』の犯人は佐助だ、という部分で谷崎を論じている。なるほどね。うーむ。納得する。面白い見方だな。
 それと、びっくりしたことがある。谷崎潤一郎が多田さんの産着を贈ったという話。

 ちょうど、そのころ谷崎さんは阪急沿線の岡本に住んでいたが、そこはわたしの生家の隣りで、谷崎さんはわたしに産着をくださったという因縁がある。そんなことはどうでもいいが、このころに、谷崎潤一郎の心の中に大きな転換が起こっていた。そのひとつのモニュメントが『春琴抄(お琴と佐助)』であり、もうひとつが日本文化論『陰翳礼讃』です。  『自分学』85頁