「みすず」読書アンケート2

 月刊「みすず」の毎年恒例の読書アンケートで、読んだ本のコメントを読むのは興味深いものだ。
 1、森まゆみ著『千駄木漱石』(筑摩書房)へのコメントを鎌田慧氏。
 2、小林信彦著『四重奏 カルテット』(幻戯書房)へのコメントを苅部直氏。
 3、多田道太郎著『転々私小説論』(講談社文芸文庫)へのコメントを加藤典洋氏。
 4、松本尚久編『落語を聴かなくても人生は生きられる』(ちくま文庫)へのコメントを藤山直樹氏。

 森まゆみさんの『千駄木漱石』は、鈴木三重吉の親友・加計正文へ出した夏目漱石の手紙文が多く引用されていた。この時期の漱石鈴木三重吉へ出した手紙は興味深いものなのだが、森まゆみさんが、漱石千駄木時代を加計正文の手紙の引用で語っているのが嬉しかった。
 目の付け所がいい。
 
 小林信彦著『四重奏 カルテット』の四篇のうちでは、「夙川(しゅくがわ)事件ー谷崎潤一郎余聞」が面白かった。岡田時彦渡辺温のことなどにもふれている。
 ただし、女優・及川道子についての記述はない。

 松本尚久編『落語を聴かなくても人生は生きられる』は落語論を選び集めたアンソロジーなのだが、好著で優れている。
 多田道太郎著『転々私小説論』は、雑誌『群像』二〇〇〇年六月から翌年八月にかけて、四回に分かれて連載されたもので読んだのだが、単行本を抜きにしていきなり講談社文芸文庫で刊行された。驚いた。
 このことを慶(よろこ)びたい。
 加藤典洋氏のコメントは、
 《1は単行本にならずにそのまま文庫に入った。多田の遺著といってよいものだが、私小説論としても秀逸。かえっていまの若い書き手の「私小説」にも肉薄しているところに多田の面目が躍如としている。多田のもので一番好きかもしれない。》
 といったものです。
 『転々私小説論』は、晩年の多田さんが到達した(あるいは回帰した)タンク・タンクロー的痛快さのある作品だと思えてなりません。
 雑誌「幼年倶楽部」に連載されたタンク・タンクローは多田さんの愛読した漫画のスーパーヒーローです。
 作者は阪本牙城。

タンク・タンクロー

タンク・タンクロー