田村隆一の『ぼくの草競馬』

ツバキの実

 早朝、アサガオを見る。今を盛りに咲き続けている。
 街路樹のツバキの木には実が生(な)っていて、少し褐色に色付いていた。
 夕方、南西の空に木星が眺められた。高度が四〇度くらいである。木星は日ごとに西へ移動しているので、だんだん観測しにくくなりそうだ。『蕪村句集』に、

 朝がほや一輪深き渕のいろ

 明和五年(1768年)七月四日の句。
 田村隆一の『ぼくの草競馬』(集英社文庫)から、「後部座席に老人一人」と「ぼくの遊覧船」を読む。

 昭和二十年八月十五日の夜は、上弦の月。二十三日の夜が満月。ぼくは学徒兵として海軍にひきずりこまれ、戦争末期の二年間をすごした。  「後部座席に老人一人」12頁 

 宮津線の栗田(くんだ)という小さな村の、小さな禅寺に起居していた田村隆一は十五日の夜に、栗田峠から眼下の宮津の町や天の橋立を、上弦の月の光だけで眺めたことを回想している。
 「ぼくの遊覧船」では田中小実昌に触れた文もあってオモシロイ。