笑福亭仁鶴を聴く2

アブラゼミ

 七月二十三日は二十四節気のひとつ大暑で、一年のうちでもっとも暑さの厳しい頃である。
 通りのあちこちから蝉の鳴き声がする。桜の樹にアブラゼミがとまって鳴いていた。
 蕪村の句に、「半日の閑(かん)を榎(えのき)やせみの声」。明和三年六月二日の句である。
 CD『上方落語特選 笑福亭仁鶴 第八集 青菜・大名将棋』から「青菜」と「大名将棋」を聴く。*1
「青菜」は植木屋が旦那はんの家で植木の手入れをしている時に、頼まれて縁側で旦那はんの酒のお相手をする。
 まず酒(柳かげ)が出て来る。ああ、よう冷えてまんなぁ。
 植木屋さん鯉の洗い食べるか? 鯉の洗いが出て来る。
 わさびが出て来る。
 あんた、青菜を食べるか?
 旦那はんが、奥さんに青菜を出すように声をかける。しばらくして、「鞍馬から牛若丸が出(い)でまして、名も九郎判官」と奥さんが答える。
 菜は食らうてありません(食べてもうありません)という隠語。
 旦那はんが、「義経」と返事をする。「よしとけ」(ではもういい)という隠語。
 植木屋はこの粋な隠語のやり取りに感心して、家に帰ると女房に鯉の洗いを食べたときの青菜のエピソードでの隠語のことを話す。
 銭湯に行く前に顔見知りの大工に会ったので、酒を一杯どうかと家に連れてきて、植木屋は昼の旦那はんとのやり取りを自分でも再現してみようとするのだが・・・。
 その頓珍漢な問答が可笑しい。
 落ちは、「うーん、弁慶」。


「大名将棋」の若殿と家臣の将棋のやり取りが面白い。
 余の桂馬は名馬である。
 若君の負けですな。
 黙れ。
 周りの駒が目障りじゃ。
 うるさいやつじゃなぁ。
 そういった若君の無茶苦茶を聞き及んだ紀州家のご意見番、石部が登場する。
 諌める石部の、そこからの展開が名調子である。

*1:「青菜」は1970年2月22日収録。「大名将棋」は1988年1月20日収録。