映画『駅前旅館』

駅前旅館

 今月は「森繁久彌特集」が上映されている。
 豊田四郎監督『駅前旅館』(1958年、東京映画、109分、カラー)を観た。シネマスコープ
 井伏鱒二の小説の映画化。八住利雄の脚色。 
 昭和33年頃の上野駅前の団体旅行客専用旅館に今はなっている柊元(くきもと)旅館を舞台に、ベテランの番頭次平(森繁久彌)、旅行会社の添乗員(フランキー堺)、森繁と客引きを競う伴淳三郎の番頭の三人を中心に、団体客が旅館で巻き起こす騒動が描かれる。
 紡績会社の女工の引率者のひとりに保健の先生・浪花千栄子、女子高の先生・左卜全(ひだりぼくぜん)、男子高の先生・藤村有弘。次平の元恋人(淡路恵子)、女子高の先生(若水ヤエ子)、カッパの親分(山茶花究)。
 カッパと呼ばれている客引き連中とのトラブルから森繁が嘘も方便と言って柊元(くきもと)旅館を辞めるという芝居を打ったのだが、これをチャンスと旅館の主人(森川信)と女主人(草笛光子)は本当に次平を辞めさせてしまう。旅館業界も時代の変化によって、客引きという稼業の縮小を余儀なくされているのだった。
 次平が旅館を辞めて出て行ったのを知ると、フランキー堺の添乗員も恋仲の旅館の女中・お京(三井美奈)と共に、柊元(くきもと)旅館を去るのだった。
 番頭仲間が集まる小料理屋に辰巳屋という店がある。その女将のお辰(淡島千景)は、森繁と日頃から心置きない仲で、番頭の森繁が旅立ったと知るや、預かった退職金を渡すために後を付けて旅立つ。
 ラストは山梨の昇仙峡への道を二台の馬車が田園地帯をゆっくりトコトコと進む。
 二台の馬車にはそれぞれ、お辰と次平が乗っている。
 その後ろに、道をふさがれたクルマの列がノロノロと続く。
 脇役で、お京(三井美奈)が印象に残る。
 映画通に聞くと出演本数は少ない女優という。