知のアクロバット

 山口昌男『知の祝祭』(河出文庫)の解説(三浦雅士)を読む。
 「知のアクロバット」と題した解説です。
 面白い解説なので、一部引用してみます。

 

買おうかどうかと思ってつい解説を覗いてしまたあなたは、この本を是非とも買うべきです。買ってしまったあなたは、さすがに目が高い。読んでしまってから解説にも目を通しているあなたには、もう何も言うべきことはありません。きっと、すっかり感心していらっしゃることでしょう。
 さて、買おうかどうかと思っている方に照準を合わせて、この本がどういう意味ですぐれているか、どういうふうに役に立つか、具体的に説明してみたいと思います。買ってしまった方にも、読んでしまった方にも、多少は参考になると思います。
 まず第一に、この本を読むと、本を読んだり映画を見たり展覧会に行ったりすることがいかに楽しいことかがわかります。つまり、本の読み方、映画の見方、展覧会の鑑賞の仕方を教えてくれるわけです。もちろん、教えてもらわなくてもいい、自分には自分流のやり方があるという人もいるでしょう。が、こういう読み方、こういう見方もあったのかという発見は快いものです。楽しみ方にはいろいろな流儀があるということがわかるだけでも、人生が豊かになるというものです。
 たとえば、この本にはさまざまな本からの引用がちりばめられています。引用されている本を読んだことがある人はすぐに気付くでしょうが、じつは引用で読んだほうが面白い。なぜか。本は漫然と読むよりは問題意識をもって読むほうがはるかに面白くなるからです。  378〜379ページ

 もう一つ引用してみます。

 

問題意識をもって本を読めば面白くなってくる。面白くなってくると読む本の数も多くなってくる。多くなってくるとさらに面白くなってくるわけですが、ここで注目すべきは、ナボコフの『ニコライ・ゴーゴリ』と、プラトンの『パイドロス』、ビュトールの『仔猿のような芸術家の肖像』といった本が並列して論じられているということの愉快さです。ロシア文学の専門家ならナボコフゴーゴリを並べて当然でしょうし、哲学書ならばプラトンを論じて当然です。しかし、ここではそれらが並列されている。つまり横断されているわけです。強烈な問題意識は知を横断するに決っているのです。  380ページ

知の祝祭―文化における中心と周縁 (河出文庫)

知の祝祭―文化における中心と周縁 (河出文庫)