「一冊の本」2月号に、山口昌男著『エノケンと菊谷栄』の刊行を知らせる晶文社の広告があった。
そのキャッチコピーが、孤高の文化人類学者、〈幻の遺稿〉遂に刊行
80年代に筆を執ったが、中断したまま完成には到らなかったという。
エノケン(榎本健一)と菊谷栄について、山口さんがどこかでふれているのでないかと、山口昌男さんの本を調べてみた。
山口昌男著『冥界遊び』に、菊谷栄について書いている箇所がありましたが、大型本の『山口昌男ラビリンス』で、そのひとつ1984年4月の「しごとの周辺」という文の締めくくりに、山口さんは、エノケンと菊谷栄を話題にしている。
「エノケンの終焉」と題した文から、一部引用すると、
《今熱中しているのは形成期におけるエノケンの周囲の問題である。昭和六(一九三一)年から十二年までの間、エノケンは、特に初期において、映画より浅草の小屋掛けレビューの最も活気のあるスターであった。浅草がエノケンを作ったということはだれでも知っている。しかし浅草でエノケンがどのようにして作られたかという事情は意外に知られていない。
その頃のエノケンの知的取り巻きは意外にも本州の北端、青森出身の才子連であった。たとえばエノケン劇団の名称「ピエル・ブリアント」(輝く石)というモダンな名をつけたのは青森出身の横内忠作であった。
この才子連の代表的存在が外ならぬ菊谷栄であった。この人の生家を訪れたら、エノケンたちが夢中になって聴いていた、当時最新のジャズ・レコードが百枚近く、半世紀もの歳月を土蔵の中に丁寧に保存されていたのに感動した。私はここで日本の土蔵文化というものの豊かさ、奥行きの深さに目を瞠った。》 『山口昌男ラビリンス』 295ページ
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