最高峰にのぼる2

 梅棹忠夫著『東南アジア紀行』の「第8章 最高峰にのぼる」は、タイの最高峰ドーイ・インタノンに総勢九名の隊員での登山である。そのうち六名が日本側隊員、タイ側が三名である。
 冬の一月二日から登りはじめた。
 《最高峰といっても、海抜二六〇〇メートルだから、せいぜい日本アルプス級である。登山という興味からは、たいしておもしろい山ではないだろう。しかし、ともかくもまず一ばん高いところにのぼるというのは、自然探究者としては、ひじょうに有効な方法にちがいない。植物、動物、人間の生活の諸類型が、そこでは、短い距離のあいだに、垂直的に配列されているのを見ることができるからである。わたしたちは、北タイにおいて、まず全員そろってこの山に登ろうと考えたのであった。技術的には、たいした困難はないだろうと思った。》(195ページ)
 正月はチェンマイで迎え、二日から西南の方角約六〇キロ行ったところのチョームトーンという町を経由し、メー・ホーイの村に着いた。二〇戸ばかりの農家があり、タイ人隊員の知りあいの家に泊めてもらう。
 ここをベースキャンプにする。
 翌朝、朝を告げるオンドリの鳴き声で目を覚ます。高床式の建物で、部屋のすぐ下がニワトリのねぐらになっているのだった。
 村人は夜明け前から登山隊の一行を見に好奇に満ちた目でやって来て、観察をしているのだった。
 村びとたちがかたずをのんで見守るなかで、梅棹さんたちはむしゃむしゃとトーストをたべつづける。
 村の近くにメー・クラーンの滝があり、見に訪れる。バンコクから乗用車やバスで観光客が訪れる観光地の滝であるが、
 《メー・クラーンは、ざんねんながらわれわれの心をとらえるには貧弱すぎた。》(203ページ)

 タイ映画で、ヘーマン・チェータミー監督の『メモリー 君といた場所』(2006年)に、主人公が居候させてもらう家が高床式であった。
 それと、滝が映されるシーンが何度もあるのだった。紀行を読みながら映画の山岳風景、渓谷と滝などを再確認するかのように思い出した。 

東南アジア紀行 (上巻) (中公文庫)

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