山口昌男の新刊、二つの書評

 22日、雨。最高気温10℃、最低気温7℃。東の風が吹く。
 24日、晴れる。最高気温14℃、最低気温4℃。乾燥している。

 街路樹のツバキが満開になっていた。青空に赤い花が鮮やかだ。
 花びらが大きく厚みがあり、湯飲み茶碗のような形をしている。葉は厚みがあり、艶(つや)がある。

 ツバキ科の常緑高木。本州以南に自生するが、関東以北では海岸地帯に点在し、ヤブツバキともいう。高さ三〜七メートル。葉は楕円形で厚く、つやがある。春、赤い花をつける。花びらは五枚あり下部が合着し、多数の雄しべも基部が合着している。果実は球形で、秋に熟すと厚い果皮が裂けて黒い種子が現れ、種子から椿油をとる。ワビスケなど多くの品種があり庭木としても重用される。  『大辞泉 


 22日の新聞の日曜版に山口昌男著『エノケンと菊谷栄』の書評が、二つ掲載されていた。

 読売新聞に「舞台に賭けた熱気」と題して、松山巖氏の書評。
 毎日新聞に今週の本棚に渡辺保氏の書評。


 松山巖氏の書評から一部引用すると、

 《時は関東大震災後で、日本に新しい美術や演劇の波が一気に押し寄せた。メイエルホリドの演劇理論、ミュージカル映画、ジャズなど。
 山口はこの波が日本でどう吸収され、菊谷の脚本演出に影響を与え、歌と躍りの舞台でエノケンがアドリブも交え、演じたか、詳細に検討する。実に多くの人物も登場するが、彼の後期の代表作『「敗者」の精神史』に連なる「匿(かく)れた水脈」を探ろうとしたはずだ。同時にフィールドワークで見出(みいだ)した。〈中心と周縁〉論を若者が集う本郷や盛り場浅草に、〈道化論〉をエノケンの演技論に敷衍(ふえん)した指摘も散見できる。
 要するに山口は本書を仕事の集大成と考えたのでは。残念ながら本書は菊谷が日中戦争で戦死し、没後の評価論の途中で終わっている。》


 渡辺保氏の書評から一部引用すると、

 《エノケンと同時に菊谷栄に興味を持った著者は、その遺族から多くの資料を借り、周囲の人の談話を取材し、それらを検証し、再構成してエノケンの実像に迫った。この本でエノケンの姿がよみがえったのは、著者の、この資料の緻密な再構成のうまさによる。(中略)
 この方法によってエノケンと菊谷栄の存在の意味を鮮明にした著者は、さらにその向こうに昭和前期の都市東京の文化――いわゆるモダニズム――の構造を鮮明にしている。(中略)
 これはまさに昭和前期の東京の文化のアルケオロジーであり、山口昌男の民俗を解析する方法のもっとも成功した著作の一つである。その結果、ここには一人の思想家の生きた精神がうかび上がっている。(中略)
 没後、北海道の古本屋で、偶然その遺稿を発見した編集者が、もう一人の編集者の協力を得てようやくこの本が完成した。
 この本の存在自体が一つの「物語」である。》

エノケンと菊谷栄

エノケンと菊谷栄