映画『カスパー・ハウザーの謎』

映画『カスパー・ハウザーの謎』

 今月(7月)は、ドイツのニュー・ジャーマン・シネマを代表する作家の「ヴェルナー・ヘルツォーク監督特集」が映像文化ライブラリーで開催された。 
 15日、ヴェルナー・ヘルツォーク監督の映画『カスパー・ハウザーの謎』(1974年、ドイツ、109分、カラー、デジタル・リマスター版)を観る。

 出演、ブルーノ・S、ヴァルター・ラーデンガスト、ブリギッテ・ミラ。

 映画史上に残る傑作。1828年、ニュルンベルクの路上で、言葉の喋れない青年が佇んでいた。地下室に閉じ込められていたようだ。彼はカスパー・ハウザーと名付けられ、ある篤志家に引き取られ、言葉を習得して通常の生活送るようになるが、突然正体不明の男に殺される・・・。カンヌ国際映画祭審査員グランプリ受賞。(特集パンフレットより)

 

 地下の牢屋に閉じ込められて育った青年カスパー・ハウザー、ある日、ニュルンベルクの路上で発見された。
 役人たちが保護するが、保護しきれなくなって見世物小屋へ引き渡された。それを町の篤志家が引き取って言葉を覚えさせピアノも演奏することも出来るようになるのだったが・・・。
 カスパーはどうしてもキリスト教の神の存在を信じることが出来なかった。
 人々が押し付ける常識というものにもなじめず、不自由を感じ続けた。孤独だった。
 ある日、突然に何者かによって襲われ殺されてしまう。
 カスパーが死ぬ間際に砂漠を移動するキャラバン隊の人々が山を登って行く映像のシーンがあるのだが、山に登る上がるということについて、種村季弘山口昌男の対談(対話)「映画神話の構造」に、興味深い談話がある。
 

 種村 (前略)これは、イタリアの生れのカリオストロがやるんですけれど、ドイツの魔術師ってのは、大がい地下に入ってくるでしょ。ドイツ人ってのは一般に、危機的な瞬間がくると高い山だとか鉱物質の地脈なんかの走ってるところへ必ず入っていきますよね。
 山口 ヒトラーも。
 種村 ヒトラーも、あの山荘がそうだ。それはまあ「魔の山」だって、「この人を見よ」だって、ホフマンの小説だってそうで、鉱物学的な層のなかへどんどん入っていく。
 山口 イタリア人はそうじゃないですね。  
 雑誌「ユリイカ」1976年8月号、176〜177ページ