『イワナとヤマメ』2

 今西錦司著『イワナとヤマメ』を読んでいる。

 今西錦司は1930年ごろ、日本アルプスの鹿島川のイワナについて、すこし調べたことがあるそうだ。
 かれらの食生活を調査したのである。
 四月のはじめと十月のはじめに調べた。
 その結果、四月のほうは、全食物の八七パーセントを水棲昆虫の幼虫が占めていた。
 そしてその中では、カワゲラの幼虫とカゲロウの幼虫とが高率を示したという。
 十月のほうは、全食物の九十九・九パーセントまでが昆虫で、その中で水棲昆虫の幼虫が占める比率は二十七・三パーセントであるという。(「イワナとヤマメ」より)


 「原始生活への誘い」(1966年)に、「釣りの目的」についての考えを述べている。

 

イワナは、日本アルプスのような高山の渓流にしか棲まないように思っている人があるかもしれないが、その分布は意外にひろく、滋賀県福井県から、さらに中国地方の渓流にまでおよんでいる。
 ただし、味という点になると、そのへんの低い山の小谷にすむイワナは、残念ながら黒部川の本流の、激流のなかで育ったものには、とうてい及ぶべくもない。
 それにもかかわらず、山が低ければ低いなりに、この魚はその山のいちばん奥深く、いちばん人気の少ない、渓流でいうならその最上流部にしか住んでいない。というところが気に入って、わたしは、またしてもイワナ釣りに出かける。
 一方でイワナは、東北地方の岩手県あたりまで行けば、水温のさがるせいか、中流部ででも釣れるけれども、釣っている横をバスが通ってゆくというのでは、もはやなんとしてもおもしろくない。そんなところでイワナを釣っても、ちっとも釣った気がしないのである。
 釣りの目的なら、これではすこしおかしいではないか。わたしのほんとうの目的は、どうやら山のなかへはいって、そこでできるかぎり文明から遠のいた、原始生活が味わいたいのであるらしい。  147ページ

イワナとヤマメ (平凡社ライブラリー)

イワナとヤマメ (平凡社ライブラリー)