「高峰秀子特集」

女が階段を上る時

 冬将軍がやって来た。日中、雪が舞い北風が吹く。
 11月から始まった「高峰秀子特集」は、今月も引き続き開催している。
 12月プログラムに、 

高峰秀子さんは、昭和30年代以降も、成瀬巳喜男監督や木下惠介監督、夫である松山善三監督などとコンビを組んで活躍しました。今月は、銀座のバーのマダムを演じて哀感を漂わせた「女が階段を上る時」、毎日映画コンクール女優主演賞を受賞した「名もなく貧しく美しく」や「永遠の人」、犯罪による被害者を救済する法律を作るために努力する母親を熱演した「衝動殺人息子よ」などを上映し、昭和の映画とともに歩んだ高峰秀子さんを振り返ります。

 今月は成瀬巳喜男監督の『女が階段を上る時』(1960年、東宝、111分、白黒)と『乱れる』(1964年、東宝、98分、白黒)、それに松山善三監督の『名もなく貧しく美しく』(1961年、東京映画、127分、白黒)を観る。
 
 プログラムから、
 女が階段を上る時
 銀座のバーのマダム圭子(高峰秀子)は、客の誘惑を退け、男に頼らずに生きていこうとするが、彼女が願う幸せに近づくことはできない・・・。主演の高峰秀子が衣裳を手がけ、銀座の夜に生きる女の哀感を描く。
 
 出演は、高峰秀子森雅之、団令子、仲代達矢加東大介中村鴈治郎小沢栄太郎山茶花究中北千枝子横山道代。美術・中古智、撮影・玉井正夫

 『女が階段を上る時』は見ていて、バーのマダム圭子(高峰秀子)が大岡昇平の小説を映画化した川島雄三監督の『花影』(1961年、東京映画、99分、カラー)のヒロインになぜか似たような雰囲気が感じられる。
 調べると、どちらも脚本が菊島隆三であった。なるほど。道理で似ている訳だ。
 この『花影』という小説は丸谷才一さんが社交小説として評価されていますね。
 この小説の解説で詳細に論じている。丸谷文学を理解するためにも必読ではないでしょうか。

 『文学全集を立ちあげる』(文藝春秋)で、大岡昇平について、

――戦後文学の芸術派ということで、大岡昇平さんをどうするか?
丸谷 大岡さんは一人一巻だよ。
――「野火」「俘虜記」ですか。
丸谷 大岡さんが野間さんと違うところは、彼は近衛師団なんだよ。近衛師団は、「真空地帯」と違ってリンチがない。これは日本の軍隊として例外的なことなんですよ。僕は大岡さんに聞いたんだ。「リンチはなかったんですか?」「近衛だからな、ないんだ」。
 「野火」という小説が読んでいて気持ちがいいのは、一つには、リンチがないからなんだよね。最初に、一発殴られるけど、あれだけでしょ? ヨーロッパ的な小説になっているのはリンチがないせいがかなり作用してる。
三浦 どっちかというと、単独者の放浪記という感じですね。


 『乱れる』
 夫の死後、酒屋を切り盛りする礼子(高峰秀子)に義弟の幸司が思いを寄せる。礼子は幸司の愛を断ち切るために家を出るが・・・。許されない愛に揺れ動くヒロインの心理を、さりげない描写の中に浮かび上がらせていく。
 出演は高峰秀子加山雄三草笛光子白川由美三益愛子藤木悠中北千枝子、十朱久雄。
 脚本・松山善三
 『乱れる』のラストの衝撃的な終わり方は、松山善三監督の『名もなく貧しく美しく』のラストに似ている気がする。

文学全集を立ちあげる

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