映画『わが恋せし乙女』

映画『わが恋せし乙女』

 三月五日は、二十四節気のひとつ啓蟄(けいちつ)である。
 啓蟄とは冬ごもりしていた虫が地上に出て来る時期をいう。
 七二候によると、野鶯の初鳴き、菜の花咲くとある。

 二月、三月の2ヵ月にわたって「生誕100年木下惠介監督特集」が開催されている。
 二月に観たうちの1本。
 木下惠介監督の映画『わが恋せし乙女』(1946年、松竹、75分、白黒)の出演は、原保美、井川邦子、増田順二、東山千栄子
 2月プログラムより引用。 

身寄りのない美子は、牧場主の息子・甚吾と兄妹同様に育てられる。甚吾は美子に恋心を抱くが、美子に恋人がいることを知り、彼女の幸せを願って身を引く。同名のアメリカ映画をもとに、若者の恋をロマンチックに描く。

 映画『わが恋せし乙女』は昭和21年公開の井川邦子主演映画である。
 牧場で育った美子(井川邦子)は、高原の牧場から麓(ふもと)の村に牛乳とチーズを届けに馬に乗って行く。牧場から届けられる牛乳とチーズを、村で消費しているとうかがわせる場面である。
 牧場ではチーズを作っているようだ。
 美子は赤ん坊の時に、牧場のそばで捨てられていて発見された。
 甚吾(原保美)の母(東山千栄子)と父(勝見庸太郎)によって美子は引き取られて育てられた。
 美子(井川邦子)の恋人(増田順二)は戦地で片足を負傷している。足を引きずって歩く。
 戦争が終わって、まだ時が経っていない時期である。戦争の傷跡がまだ日常に残っている。
 兄の甚吾(原保美)の乗った馬が、妹の美子(井川邦子)の乗った馬を追いかけるシーンが素晴らしい。
 山道を馬が駆ける長い移動撮影があるのだが、まるで西部劇映画の馬が走る一シーンである。
 翌年の昭和22年に木下惠介監督の映画『結婚』(1947年、松竹、85分、白黒)でも、東山千栄子は母、井川邦子は次女役で演じていた。長女が田中絹代