ヤスミン・アフマド監督の映画『タレンタイム』

 今月(9月)、マレーシア新潮のシンボル的存在で、2009年に急逝したヤスミン・アフマド監督の映画特集があった。
 上映されたのは、『ラブン』(2003年)、『細い目』(2004年)、『グブラ』(2005年)、『ムフラフ 改心』(2007年)、『タレンタイム』(2009年)である。
 その中の一本を観た。
 ヤスミン・アフマド監督の映画『タレンタイム』(2009年、マレーシア、120分、カラー)で、35ミリフィルムでの上映だった。
 原題はTalentime。
 出演は、マヘシュ・ジュガル・キショー、パメラ・チョン・ヴェン・ティーン。
 9月パンフレットによると、

音楽コンクール「タレンタイム」に青春をぶつける高校生たち。マレー系の少女とインド系の少年、民族や宗教が異なる二人の交際の前に様々な困難が・・・。新鋭キャストがみずみずしい存在感を示す。

 冒頭、学校の講堂のような建物が左右対称な構図の映像から始まる。
 室内は暗かったが、天井の照明が次々に点灯され建物の中が明るくなる。
 学校では毎年、音楽コンクール「タレンタイム」へ出場する優秀な出演者を生徒から選んでいる。
 審査員の先生が七名で演奏と歌の優れた生徒を七名選んだ。
 選ばれた生徒の家庭を描きながら、マレーシア社会が多様な民族と言語による社会だということを観客に気づかせ浮かび上がらせる。
 マレー系の少女ムルー(パメラ・チョン・ヴェン・ティーン)とインド系少年マヘシュ(マヘシュ・ジュガル・キショー)の初恋をみずみずしく描いた物語。 
 選ばれたムルーはピアノの弾き語りで「Angel」という曲を歌う。
 学校当局から出場者のムルーをリハーサルに学校まで送り届ける役として選ばれたのが、まじめなマヘシュ(マヘシュ・ジュガル・キショー)で、バイクでムルー送迎するようになる。
 マヘシュは耳は聞こえるのだが、話せない障害をもっていて手話で会話する。
 バイクの送迎でいつしか二人が心を通わせるようになるのだった。
 主人公のマレー系の少女ムルー(パメラ・チョン・ヴェン・ティーン)の家族は、マレー語と英語を家では話す。
 父はマレー系で太っ腹な体格の大男で、食事中に下品な言葉を使って娘らから顰蹙(ひんしゅく)を買っているが、憎めないお茶目なところのある人。
 人物描写が繊細でユーモラスで、ヤスミン・アフマド監督の映画の見どころのひとつである食事の場面で笑わせられる。
 ほかの出場予定者は、マレー系のハフィズがいる。ギターの弾き語りで出場する。
 ハフィズは母子家庭で母が病気で入院していたが、見舞いもむなしく亡くなるのだった。
 華人の少年カーホウは、父が成績が何でも一番でなければという一番病の人で、ハフィズに成績で一番にならなかった息子カーホウを厳しくしかって叩くのだった。
 暴力をふるう頑固な父を持つカーホウだが、二胡の演奏で出場する。
 母を失ったハフィズのギターの弾き語りに、二胡の演奏で友情出演する優しさを持っている。
 ある日、マヘシュがムルーの家族に迎えられて歓迎されて泊まっていくようにいわれ外泊をしたのだったが、息子を捜していてそれを知ったマヘシュの母は異教徒との交際は絶対に認められないと怒り狂った。
 それで、ムルーとマヘシュは深く傷ついた。
 音楽コンクール「タレンタイム」の日がやって来た。
 ムルーがピアノの弾き語りで「Angel」という曲を歌う。実にいい場面である。
 ムルーがふと会場に目をやると、そこにマヘシュが見にやって来ていた・・・。
 2009年に急逝したヤスミン・アフマド監督の遺作である。