映画『新雪』について

 1942年公開の五所平之助監督の映画『新雪』は、当時の人にどのように見られていたのだろうか。
 猪俣勝人著『日本映画名作全史 戦前篇』によると、「新雪」は大映東京作品、ベストテン第六位、原作・藤沢桓夫、脚本・館岡謙之助。 

松竹から大映に移った五所の第一回作品、爽やかな青春メロドラマとして、安手な時局便乗ものの氾濫するこの時代に、出色のたのしさだった。 283ページ

 猪俣勝人さんは、《安手な時局便乗ものの氾濫するこの時代に、出色のたのしさだった。》と語っている。

 この本の「はじめに」からも一部引用してみよう。

 映画の歴史は、どういう数え方をするのが一番いいのか、初めて動く写真ができた時をその最初の頁とするのか、そうした実写の時代を終えて、一つの筋を伝えるためにフィルムを編集して一貫したテーマを伝えるものを映画とよぶべきか、いろいろ見方があるだろう。だが、それは映画発達史に属する問題である。ぼくにとっての映画史とは、あくまでも映画劇、つまりドラマのそれでなければならない。(中略)

 ところでこの本を書くにあたって、ぼくはシナリオ作家の眼ですべてを見ることをはばからなかった。その視点は明らかに批評家のそれとは違う。ぼくは自分自身ものを書く人間、創作をする人間として、これらの作品を通して日本映画の歴史を見直し、感じたままを歯に衣きせずに書いた。その意味では一シナリオ作家の心に刻まれて残った名作風景の記録といっていいかもしれない。そしてそれもまた一つの日本映画名作史としての客観性をもち得るであろうことを信じたいのである。