日本映画俳優全史から

 猪俣勝人・田山力哉著『日本映画俳優全史―女優編―』を読む。
 吉村公三郎監督の映画『わが生涯のかゞやける日』(1948年、松竹大船、101分、白黒)に出演の山口淑子について、

 《またの名を李香蘭、というよりは、その名前による異邦人の女優として売り出された人だった。戦時中はもっぱらこの名前で、ほとんどの人が彼女を満州国人だと思っていた。満映のスターとして、その派手な容貌を海の向うから見せてくれたのだからそう思うのも無理はない。第一、満映自体が彼女を満人スターとして、日支、日満をつなぐ虹の架け橋にしようともくろんで生み出した。政策上の幻のスターとして宿命づけられていたのだ。(中略)
 やがて日本の敗戦となって満州国は壊滅(かいめつ)、あの華やかなる李香蘭の運命がどうなったかと心配されたが、彼女は突如、山口淑子なる日本人名を名乗って我々の前に姿を現わした。おりしも日本中は、軍国主義への怒りに燃えたぎっていた。彼女もまた中国侵略の軍国主義の傀儡(かいらい)であったとされ、日本の映画界はかならずしも快よく迎え入れはしなかったが、彼女ほどの人気スターをすてておくはずもなく、まもなくあらためて山口淑子の日本名で再スタートさせた。
 新藤兼人吉村公三郎コンビによる「わが生涯の輝ける日」で彼女は幸運なる滑り出しを見せ、さらに谷口千吉の代表作となった「暁の脱走」(昭和二十五年)でもめざましい成功を見せた。 73〜76ページ》

 映画『わが生涯のかゞやける日』は、彼女にとって幸運なる滑り出しを見せた作品だったようです。