秋深く野菊ばかりぞ今日も濃く

 秋分が過ぎても暑さが残る。曇り、最高気温31℃、最低気温22℃。
 吹く風は乾いている。コスモスが咲き、柿が稔る。
 彼岸花が見られる季節になった。長い茎の先に赤い花を開く植物だが、群生している赤い花の中に白い花の彼岸花が見られた。珍しいので近くに寄って観察する。
 


 「秋深し吾に秋草の句ばかり
 「秋深く野菊ばかりぞ今日も濃く
 「葛を踏み芒にさはり月明り


 中村汀女の昭和二十一年(1946年)の俳句である。
 この年、汀女は三月に熊本へ、月余滞在。
 滞在中の熊本に、桜島からの噴煙が遠くから来た。


 西山雅子編著『“ひとり出版社”という働きかた』で、サウダージ・ブックスの淺野卓夫氏へ、《「本のある世界」と「本のない世界」の狭間を旅する》と題したインタビューの宮本常一や今福龍太、そして山口昌男の各氏への談話を読んだ。
 
 一部引用すると、

 

家族や研究の世界から行方をくらまして沖縄や奄美あたりを放浪し、一年ほどが経とうとしていたとき、札幌大学の学長を終えた山口昌男先生が東京に戻られました。僕が大学で師事した人類学者の今福龍太先生の、さらに師匠にあたります。かつて、メディアの寵児としてもてはやされた時代は過ぎ、取り巻きたちがすっかり去ったあとでした。高齢のため身体の自由はきかなくなりつつも、頭のなかは依然として高速フル回転。権威の鎧を脱いで知的好奇心のかたまりだけが残された、むき出しの知の巨人として僕の前に現れたんです。弟子入りするつもりでご自宅にうかがうと、いきなり「よし、お前、俺の書生になれ」と。長期の入院生活に入る前まで一年間ほど、半ば住み込むようなかたちでした。 147〜148ページ

 その後、フリー編集者の仕事と平行して、サウダージ・ブックスの屋号を掲げ、本づくりがスタートするまでの経緯(いきさつ)が語られて興味深い。

“ひとり出版社

“ひとり出版社"という働きかた