蓮の花と小説『猫の客』

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蓮(ハス)が咲いている。見ごろだ。もうすぐ夏至である。

スイレン科の水生の多年草。根茎は節が多く、晩秋に末端部が肥厚し、蓮根(れんこん)といい、食用。葉は円形で長い柄をもち水上に出る。夏、水上に花茎を伸ばし、紅・淡紅・白色などの大きな花を開く。花のあと、花托(かたく)が肥大して逆円錐状になり、ハチの巣のような穴の中に種子ができ、食用。インドの原産で、古く中国から渡来し、池・沼などに栽培される。蓮華(れんげ)  『大辞泉

最近、一冊の小説を読んだ。

平出隆の『猫の客』である。帯に、

チビの来た庭

狂騰する時代の波に崩される古い屋敷での

生きものの軌跡ーー魔術的私小説

とある。

一部引用すると、

《七月半ばに梅雨があけると、庭の池のほとりの日当たりのいい岩に、一匹のシオカラトンボの青い姿態があらわれていた。ホースの水でつくる空中の弧についついと口づけてきたあの一匹の、遺した息子ということになるのだろうか。》(以下、略)

このシオカラトンボが、差し出した左手の人差指に止まる。

《喜びとともに息を凝らした。やはり彼だ。短いようで、長い時間だった。人けの絶えようとする、周囲の目からも奇妙なほど隔絶されている庭の中央で、指先にしばし、大きな二個の複眼と透き徹った四枚の翅を載せていた。》

 

猫の客 (河出文庫 ひ 7-1)

猫の客 (河出文庫 ひ 7-1)