玻璃盤(はりばん)に露のしたたる苺(いちご)かな

 クルミ(胡桃)の木が、丸い実を付けていました。まだ黄緑色をしていて、さわると硬いですね。

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 「更衣(ころもがえ)同心衆の十手かな」
 「玻璃盤(はりばん)に露のしたたる苺(いちご)かな」
 「能もなき教師とならんあら涼し」

 明治36年(1903年)の夏目漱石の俳句です。玻璃盤とは、ガラスの鉢をいう。

 

 筑摩書房のPR誌、「ちくま」6月号にサプライズがありました。金井美恵子さんの新連載「重箱のすみから」が今月号からはじまりました。今月号のタイトルは、「医者の言葉、小説家(と批評家)の言葉①」。

http://www.chikumashobo.co.jp/blog/pr_chikuma/entry/1503/

あるシリーズに「はまる」

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 三月はじめに、黄色の小さな花が房のようになって咲いていたサンシュユ(山茱萸)の木が実を付けていました。実はまだ黄緑色をしています。

 ミズキ科の落葉小高木。葉は楕円形。樹皮ははげやすい。早春、葉より先に黄色の小花を密につける。実は熟すと赤くなり、漢方で滋養強壮薬とする。朝鮮半島・中国の原産で、庭木にする。  『大辞泉

 講談社のPR誌『本』6月号の多和田葉子の新刊エッセイ「物語は続く」に、《あるシリーズに「はまる」という現象はかなり昔からあったようだ。今では探偵小説の古典になってしまったシャーロック・ホームズの時代にすでに、作者がもうシリーズを打ち切りたくなっても、すっかり「はまって」しまった読者がそれを許さないという現象があったと聞いている。》という箇所が冒頭にありました。連載小説、テレビの連続ドラマなどシリーズ物に「はまる」という現象をめぐるエッセイであります。
 多和田葉子さんの「物語は続く」によると、一作目の『地球にちりばめられて』につづき、今回の新刊の『星に仄めかされて』はシリーズの二作目になるようですね。

 

地球にちりばめられて

地球にちりばめられて

 

 

 

星に仄めかされて

星に仄めかされて

 

 

十薬の花に涼むや楽屋裏

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 ドクダミの白い十字形が目立つ季節になりました。葉を千切ると独特の匂いがします。この時期は繁茂した姿を見ることができます。

 ドクダミ科の多年草。日陰の湿地に生え、高さ一五~三五センチ。全体に悪臭がある。葉は広卵形。夏、淡黄色の小花を穂状につけ、その基部に白い苞(ほう)が十字形につき、花びらのように見える。整腸・解毒・利尿などの民間薬として用いる。十薬(じゅうやく)。  『大辞泉

 

 「十薬の花に涼むや楽屋裏」 

 昭和十三年(1938年)の松本たかしの俳句です。

 

 久しぶりに書店へ。2020年11出版社共同復刊24の「書物復権」という小冊子を入手しました。復刊リクエスト本を元に決定した書籍は五月下旬より全国約200の協力書店店頭にて展示される予定という。小冊子に「書物と食物」という藤原辰史氏の文が掲載されていて、書物と食物の味わいをめぐって論じている。
 箱入りの本、薄めの文庫本、ドストエフスキーフーコードゥルーズ丸山眞男夏目漱石藤田省三の本などの味わいを食物の比喩で語っています。
 ドストエフスキーは、《札幌ラーメンの濃厚な味噌とコーンとバターの味がするし、フーコークリーミーなフレンチのコースにデザートを食べた満腹感に襲われ、ドゥルーズはカラフルで新鮮で多種類の野菜のサラダの茎が喉に刺さるし、丸山眞男は、洋食屋でナイフとフォークでエビフライとハンバーグを食べたような気持ちになり、夏目漱石藤田省三はざるそばを啜ったあとの喉越しが残る。》

 

www.kinokuniya.co.jp

「秘密の本棚」を聴く

 夜のNHKラジオの番組で、「高橋源一郎飛ぶ教室」を聴く。前半の「秘密の本棚」で紹介された一冊は、ヴァージニア・ ウルフの『自分ひとりの部屋』。女性が小説を書くのに必要なのは、知的自由をささえるためには、自分ひとりの部屋と年収500ポンドが必要だとヴァージニア・ ウルフはいう。この本の書かれた時代背景やウルフの生涯と作品をめぐり語られる。

  

自分ひとりの部屋 (平凡社ライブラリー)
 

コロナの時代の僕ら

 外出自粛でラジオを聴く時間が増えている。

 先月から毎週、夜開く学校の「高橋源一郎飛ぶ教室」を聴いている。前半の「秘密の本棚」では、イタリアに在住の作家パオロ・ジョルダーノの『コロナの時代の僕ら』というエッセイが紹介された。

 「すべてが終わった時、本当に僕たちは以前とまったく同じ世界を再現したいのだろうか」
 『コロナの時代の僕ら』著者あとがき

www.hayakawabooks.com

 後半は詩人の伊藤比呂美さんによる電話による音声での放送。リスナーからの人生相談に伊藤比呂美さんと高橋源一郎さんが回答するのだった。
 コロナ後の世界について、元に戻らないもの、元に戻ったほうがいいもの、今は時間がたくさんありますから新しい時間秩序を考える時間ではないか、と様々な意見が述べられる。

 

コロナの時代の僕ら

コロナの時代の僕ら

 

 

「飛ぶ教室」の課外授業

 NHKラジオの「高橋源一郎飛ぶ教室」で、「課外授業 みんなの読書感想文」を聴いた。

 前半は、夏目漱石の『こころ』をめぐってリスナー(ラジオの聴取者)からの読書感想文が朗読された。そのあとに、ゲストの小説家の島田雅彦さんが漱石の『こころ』について持論を展開する。

 前半が50分、後半が50分の特別番組で、後半は、課題図書が、太宰治の『人間失格』。この文学作品をめぐってリスナーからの読書感想文の朗読とゲストの能町みね子さんが語る。ゲストによる解釈と高橋源一郎の解釈など興味深かった。この作品をリスナーが読み解いた感想文も興味深い。出演者の様々な解釈も聴きどころだった。

 前半、漱石の『こころ』から島田雅彦の『彼岸先生』に高橋さんが言及する場面あり。

 多様性を秘めている漱石文学をめぐる議論(談話)が楽しめた。
 後半は、太宰治の『人間失格』をめぐってリスナーの感想、ゲストの感想、それらをまとめるように高橋源一郎の太宰の作品の現代性、喜劇的な側面を語って今回の100分の放送が終わった。

参照:『こころ』http://aozora.binb.jp/reader/main.html?cid=773


人間失格http://aozora.binb.jp/reader/main.html?cid=301

 

 

漱石を書く (岩波新書)

漱石を書く (岩波新書)

  • 作者:島田 雅彦
  • 発売日: 2002/07/18
  • メディア: 新書
 

 

 

彼岸先生 (新潮文庫)

彼岸先生 (新潮文庫)

 

 

 

乾いた笑い

 新潮社のPR誌『波』5月号に、「追悼 志村けんさん・宍戸錠さん」と題して小林信彦さんの文章が掲載されていた。「『決定版 日本の喜劇人』最終章・改――高度成長のあと」と「追悼宍戸錠さん」名評論再録。後者は、『日本の喜劇人』第六章より再録、タイトルは「醒めた道化師の世界」日活活劇の周辺。

 宍戸錠といえば、鈴木清順監督の映画『殺しの烙印』(1967年、日活)で殺し屋を演じた宍戸錠が電気炊飯器の炊きあがったご飯の匂いに酔いしれるシーンが可笑しくて笑ったことであった。「追悼宍戸錠さん」名評論再録から一部引用すると、

 《学生生活二年で、彼は日活のニューフェースとなる。昭和二十九年、日活が映画制作を再開した年である。

 以後、宍戸錠は、つねに、フィルムのなかで、そのユニークな個性と乾いた笑いを開拓しつづける。》