「そもそもオリンピック」

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 スズキコージ「そもそもオリンピック」原画展をgallery Gにて観る。アーサー・ビナード作、スズキコージ絵による絵本の原画が展示されていました。絵本の原画を見ると、そもそも近代オリンピックとはどのようにしてはじまったのか、その辺の事情にもふれて、絵が描かれていました。

 

https://youtu.be/RybPqtrvkoc

そもそもオリンピック

そもそもオリンピック

 

 

 

「満月雑記帳」から

 梅雨の中休み、ハスが開花の季節を迎えている。白い花弁の中心に花托が見られます。

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 「サンデー毎日」の七月十九日号の中野翠の「満月雑記帳」に、
 《前号で、今年一月十三日に急逝した坪内祐三さんの著作集『本の雑誌坪内祐三』(本の雑誌社)が出版されたと手短に紹介したが、今年は『みんなみんな逝ってしまった、けれど文学は死なない。』(幻戯書房)と題した坪内さんの文学関連の評論集というかコラム集が出版された。没後、こんなに早く次々と遺稿集が出版されるは珍しいのでは? 坪内さんの旺盛な仕事ぶりにあらためて驚かされる。頭がさがる。
 今回の『みんなみんな逝ってしまった、けれど文学は死なない。』に収録されたコラムの巻頭におさめられたのは、「福田恒存(つねあり)・・・・・・嫉妬心がない保守思想家」と題した三ページ程のエッセイ―。その中で、坪内さんは「私にとって師と呼べるのは、学校とは別の場所で出会った二人の人しかいない。福田恒存山口昌男だ」と書いている。》

 

 

本の雑誌の坪内祐三

本の雑誌の坪内祐三

  • 作者:坪内祐三
  • 発売日: 2020/06/19
  • メディア: 単行本(ソフトカバー)
 

 

 

 

コミさんのバス旅から

 田中小実昌著『コミさんほのぼの路線バスの旅』で、コミさんこと田中小実昌さんは東京からフツーのバスをのりついで、お江戸日本橋をふりだしに、東海道を京の三条大橋までたどり着いた。

 《お江戸日本橋をふりだしに、この京の三条で東海道はあがりとなる。
 東京からフツーのバスをのりついで、やっとここまできた。途中ひきかえしたり、とんでもないまわり道をしたり、滋賀県彦根まできながら、どうにもならず、あきらめて中断していたが、西へいくバスのことは、いつも頭のなかにあった。それがこうして、京都の三条大橋までたどりついた。十年たっていた。》 「京都三条は終着点 出発点」 97ページ

 「山陽道中バス栗毛」から注目の箇所を一部引用してみよう。イラストは古川タク。装幀は梶木一郎。初出誌は雑誌「旅」。

 《ぼくは二ホンでもたいへんにヒマな男のひとりだが、それでも、たとえば映画の試写を見るときは東京にいなくちゃいけない。そんなことで、バスにのっては二日か三日かほどふらふらし、そのあと東京にかえる。
 そして、また東京からでてきてバスにのるのをくりかえしてきた。
 わらわないでいただきたいが、さいしょにバスにのったのはもう二十年もまえのことだ。それも、べつに東京から西へ西へとバスでいこうなんて考えてもいなかった。》  116ページ

 《やっとこさ西条についた。酒都西条という大きな看板がたっている。西条駅近くの「こつぼ」でカレイの唐揚げをたべ、地元の酒の福美人を飲む。尾道は言葉のおわりにナアがつくが、こちらノウ、と店の主人が言う。ぼくもノウの広島弁でそだった。小津安二郎監督の名作「東京物語」の笠智衆東山千栄子の老夫婦は尾道に住んでおり、「・・・・・・ですなあ」なんてやっていたのをおもいだす。(中略)
 翌朝、西条から広島にでるバスが、また時間のつごうがわるく、呉行のバスにのる。黒瀬、郷原はもう呉市のうち、広へとかなり山をくだる。阿賀、呉駅。この日は呉から広島にでて、宮島口にいき、フェリーで宮島にもわたり、ぼくのほかはかき丼をたべた。「冬陽ぬくく尾根にいずれば四国見ゆ」呉第一中学校のときの担任の先生の句で、ぼくの家などがある山の尾根までのぼったら、瀬戸内海をへだてて、四国の山が見えたってことらしい。》 「ふるさとの山はかわってた」 126~127ページ

 

 

花はちす雀をとめてたわみけり

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 梅雨の晴れ間に、公園の池にハスの花と花が散って花托(かたく)が見られました。ハスの葉にトンボもいました。ショウジョウトンボの雄(おす)です。

 

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トンボ科の昆虫。雄は全体に鮮やかな赤色、雌は橙(だいだい)色。夏、池沼に普通に見られる。本州以南、アジア東部の熱帯に広く分布。  『大辞泉

 

 

  「花はちす雀をとめてたわみけり」
 芥川龍之介の俳句です。

 最近、新刊の文庫本で田中小実昌の『ほのぼの路線バスの旅』を読みました。既刊本の『コミさんほのぼの路線バスの旅』が中公文庫になったのでありますが、タイトルからコミさんが無くなっています。コミさんを付けたタイトルのままでないタイトルになっています。
 そういえば、「文學界」6月号に、神藏美子の「聖(セント)コミマサと奇蹟の父」という田中小実昌論を目にしました。『アメン父』をめぐる興味深い文章で、呉を訪れて足で取材をしています。今年が田中小実昌さん没後20年になるのですね。

 

ほのぼの路線バスの旅 (中公文庫 た 24-3)

ほのぼの路線バスの旅 (中公文庫 た 24-3)

 

 

 

 

映画『ユリウシュ』

 ポーランド映画祭の一本でアレクサンデル・ピェトシャク監督の映画『ユリウシュ』(2018年、97分、カラー、日本語字幕、デジタル)を観ました。美術教師のユリウシュの父は絵描きであるのだが、息子からみて破天荒な生活を送っている。心臓発作で入院しているのを見舞ったが、元気になるとまた家に戻ると息子から見て見知らぬ人々を集めてはどんちゃん騒ぎを繰り広げるのだった。
 父の昔描いた女性の一枚の絵をめぐって過去の知られざる父の秘密が、ユリウシュに気づかされるのだった。強烈な個性の父親役のイエジー・スコリモフスキ監督の怪演が印象的な喜劇映画です。

「図書」7月号から

 「図書」7月号に掲載されている文筆者・切通理作さんの「古本屋は、無限の世界とつながっている」で、《私は物書きだが、昨年の八月からなぜだか古本屋もやっている》という。切通理作さんの地元・阿佐ヶ谷の松山通りという商店街に「ネオ書房」という店名で古書店をやることになった経緯(いきさつ)を興味深く読んだ。《一冊一冊に、ふたたび読者とふれあい、スパークするのを待っている言霊たちがひしめき合っている。》

https://youtu.be/u2wtgRo9CdY

映画「月曜日が嫌い」

《今年もポーランド映画祭では、民主化以前に製作された秀作から近年製作された感動の実話ドラマやコメディなど、バラエティーに富んだ作品の数々をお届けします。
 巨匠アンジェイ・ワイダ監督の代表作『灰とダイヤモンド』、民主化以前に製作されたコメディ『月曜日が嫌い』、アカデミー賞の監督賞、撮影賞、外国語映画賞の3部門にノミネートされた『COLD WAR あの歌、2つの心』、共産主義体制に反発しながら革新的なサウンドを生み出し続けたジャズ・ピアニストのドキュメンタリー『コメダコメダ』、など計10作品を上映します。これらの作品から、ポーランドの過去と現在、そして未来を体感してください。》

 今年のポーランド映画祭からの一本で、タデウシュ・フミェレフスキ監督の映画『月曜日が嫌い』(1971年、ポーランド、103分、カラー、日本語字幕、デジタル)を鑑賞する。

 政府の任務で出張に来たものの、なかなか目的地へたどり着けないイタリア人。学校創設のために寄付をするアメリカ人。朝は牛乳配達、昼間は工事現場で働くポーランド人。ワルシャワを舞台に、愛すべき人々の生活を描いたコメディ。その牧歌的で楽しい人間模様は共産主義政権下で製作されたとは思えないほど。ポーランド映画祭パンフレットより)

 ポーランドワルシャワの街を舞台にしている。午前零時からの二十四時間のワルシャワの街に起こる登場人物たちの巻き起こす静かなナンセンスな笑いとユーモアのある作品。楽しい人間模様を味わえる。映画祭パンフレットにあるように共産主義政権下で製作されたとは思えない。スポーツカーのエンジンを始動させるためのクランク棒を杖(つえ)がわりにして路面電車のレール上に滑らせて、眠りながら歩き続ける(有名人らしい)男、交差点で交通整理をする警官と幼い男の子、おしっこをしたくなった男の子をパトカーが呼ばれて警察署に運ばれる。朝の牛乳配達人がアパートに配るときに起こるドタバタの混乱。昼間工事現場で仕事をさぼって眠っていてクレーンで高い所へ吊り上げられてしまった作業員、昼食になっても誰も気づかない。トイレットペーパーが品不足であることがわかる場面がある。イタリアからポーランドへ役人に会いに来たイタリア人が空港でタクシーに乗るも役人一行とすれ違いを何度も繰り返し、ハチャメチャの混乱ぶりに大笑い。ポーランド系のアメリカ人がワルシャワに学校建設に寄付をした開校式に間に合わないタクシートラブルなど、とぼけた味わいのある喜劇映画である。