新海誠の『秒速5センチメートル』

クイーンエリザベス

 「どれほどの速さで生きれば、きみにまた会えるのか。
 「秒速5センチなんだって・・・桜の花のおちるスピード・・・」
 雪もひらひらと舞い落ちる。これも秒速5センチメートルかな。
 シネツイン1でもらった「エンドマーク」5月号の連載コラム「美妙」を読んで、筆者の映画館支配人・住岡正明さんの言葉にだまされたつもりで、新海誠の連作短編アニメーション『秒速5センチメートル』をサロンシネマへ観に出かけた。最終上映時間の回で、観客は二十人ほど。
 予備知識も何も持たないで観にきたのだが、凄い映画である。
 このコラムの「美妙」とは、「何ともいえず、すぐれていること」という意味である。住岡正明さんの文を一部引用する。

 はっと、驚いてしまった美しいことば。これまで耳にしたことのない表現。あっと、声出る美しい風景。なつかしさを覚える映像描写。新海誠・原作・脚本・監督の新作『秒速5センチメートル』である。こどもの頃、大人にむかってまんがやアニメのことを「まんが文学だ!」と言って肯定して笑われていたが、やはりそれは小さなひとつの真理ではなかったろうか。あえて今、大人のボクが大人の方にこれは「アニメ文学」ですよ、とおすすめをしたいのです。
 桜の花びらと秒速5センチメートルの言葉の組み合わせは、とてつもなく、小説的であり、詩的である。「さまざまの事 思い出す 桜かな」の芭蕉先生もさぞやこの現代の若者に拍手をおくったろう。そう、この映画の凄さは、さまざまの事を思い出させてくれる、桜なのである。老若男女それは私たちすべての人に身に覚えのある幸福な記憶。心に響いていた記憶は一瞬のうちによみがえる。たしかに自分も、夕陽の変化に何分も身じろぎもせず見入っていたものだ。(中略)
 ディテール(細部)に神が宿るという。繊細緻密、純粋無垢さの映像が他のアニメをいや、実写映画をも圧倒する。凡人ならたじろぐこの厳しい日本映画界に、ずいっと入ってゆく。それは、まずまねのできないことだ。上映時間1時間3分なのに2時間級の本気の本物である。 

この作品は、見えないものに気づかせてくれる。人と人、人と自然はそれぞれが影響しあっている。それは、まさに、奇跡的な偶然でもあるのだということを思い出させてくれる。住岡さんの文にだまされたつもりで観に出かけたが、快作の傑作だった。
 なおサロンシネマの入り口のポスターの展示のところに、四月二十八日に新海誠監督が舞台挨拶に来られた時のサインが展示してあった。
 第一話「桜花抄」
 第二話「コスモナウト」
 第三話「秒速5センチメートル
 主題歌 山崎まさよし