クォーク談議

ドングリ

 街路樹のコナラの木の下にドングリが散っていた。サイズは長さ2センチ、幅が1センチ。
 ノーベル賞受賞ということで、南部陽一郎とH・D・ポリツァーの対談『素粒子の宴』(工作舎)を久しぶりに、再読する。表紙が蛍光インクで印刷されているので、本の背にある「素粒子の宴」というタイトルが消えかかっている。
 年月の推移を感じさせる。
 対談には十川治江と途中から松岡正剛の二人が加わっている。対談の途中で松岡氏は退出。
 この本が出版されたころだったか、工作舎の雑誌『遊』で、全国の読者との交流になる集まりが各地で行われたのだった。
 その集まりで、十川さんにお目にかかったことがある。今もお元気なのかな。
 『遊』の編集者の一人だった定森義雄氏も白いスーツで発言されていた。そうすると、まだ暑い時期だったのだろう。

 十川さんが「クォーク理論によって物質観が果たしてどこまで変わったのか。何が初めて出てきた考え方であり、前からひきつがれたこだわりがあるとすれば何なのか。その辺りを検討していただけるとおもしろいと思うんです。」と冒頭で司会役として語り対談がはじまった。

 南部 ここは、ぜひ若い世代にいろいろ話してもらった方がいい。私は、ポリツァー君の発言につけ加えて話すという役にまわりましょう。
 十川 おふたりの独自の自然観なりを出していただければと思います。なかにはまだ解けない疑問や謎もあるでしょうが。
 南部 まだ答えの見つかっていない問題はいくらでもありますよ。
 十川 そういうことを知らされる機会がひじょうに少ないんです。私たちには常に解答という形でしか伝播されてこない。むしろ「謎の共有」こそ必要だという気がします。  6〜7ページ

「宴を終えて」というあとがきに、内田美恵さんがクォークについて次のように書いている。

 「クォーク」は、ゲルマンがジョイスの『フィネガンズ・ウェイク』に出てくるカモメの鳴き声からヒントを得た名だとされています。(中略)
 南部、ポリツァー両物理学者の巧みな話術とユーモアによって、われわれもお茶を飲みながらの軽やかなクォーク談議が楽しめるようになったことをここに感謝します。  197ページ