山桜を見る

彼岸山桜

 4月5日は二十四節気のひとつ清明で、快晴で長閑(のどか)な桜日和である。
 3日、山桜の老木を見に行く。一五〇年の山桜。花は八重である。
 見物人がいたが、多くはない。花見客があちこちに桜の樹の下で宴を開いていた。まだまだ静かだ。焼肉のグリルの煙が上がっている。
 平地に菜の花畑が広がっていて、ひらひらとモンシロチョウが舞っていた。空気が澄んだ青空にツバメも飛び回っていた。ツバメを今年初めて見る。

 シロチョウ科のチョウ。最も普通にみられるチョウで、翅(はね)の開帳五、六センチ。翅は白色で、前翅の先端が黒く、前翅に二点、後ろ翅の前縁に一点の黒紋がある。幼虫は菜の青虫・菜種虫などとよばれ、キャベツ・ハクサイ・アブラナなどの葉を食べ、青虫ともなる。年数回発生し、ふつう、さなぎで越冬。  『大辞泉

 週末から「森繁久彌特集」が映像文化ライブラリーで始まった。
 2日、春原政久監督『三等重役』(1952年、東宝、98分、白黒)。3日、豊田四郎監督『夫婦善哉』(1955年、東宝、120分、白黒)が上映された。どちらも、中高年で超満員。
 『夫婦善哉』で、柳吉(森繁久彌)と蝶子(淡島千景)が自由軒という食堂でカレーを食べるシーンがあるが、舞台となった自由軒は波屋書房の近所のようだ。
 『三等重役』では河村黎吉の名演が光っている。最高の演技だろう。
 小林信彦の『最良の日、最悪の日』(文春文庫)で、「満開の桜の下では」を読む。

 四月五日、ぼくは府中の桜並木の下をバスで通り過ぎたが、この花も見事だった。散り始めてもいなかった。午前中なので、見物客は皆無であった。
 毎年、桜のころにこの道を通るのだが、今年ほど、心に染みたことはない。何人かの友人が死んで、ぼくは生きのび、〈今年の花〉を見ている。――そういうことなのだろうか。  98ページ