セミフ・カプランオール監督の映画『蜂蜜』

蜂蜜

 セミフ・カプランオール監督・脚本の映画『蜂蜜』(2010年、トルコ・ドイツ、103分、カラー、原題:Bal)を、サロンシネマ2で観る。上映二日目。観客は30人ほど。
 山深い森に父と母と三人で暮しているユスフは文字を学校で習い始めた6歳くらいの男の子。
 父は養蜂家で近くの養蜂の巣箱(木の上に設置している)が、どれも蜜蜂が入っていないので、蜜を求めて森の奥まで出かけて行くのだった。その際、蜂蜜を求めて高い木に登る。

 冒頭、深い森の中を、驢馬とともにユスフの父が現れる。大きな木にやって来ると、木の上を眺める。蜜蜂の巣がある様子で、驢馬に乗せて来ていたロープを取り出すと、木の上へ勢いを付けて放り上げて枝に引っ掛けるのだった。そのロープを頼りに父は蜜蜂の巣のある高いところへ登って行く。だが、細い枝が人の重みに耐えられずに折れ、ロープもろともに落ちてゆくのだった。

 映画はクレジットに切り替わって、その後、学校に通うユスフの日々を淡々と描く。
 ぬかるみのある山道を通学する。学校での授業の様子。先生の指示で、本を声に出して読むのだが、なかなか文字が読めなくて口ごもるユスフ。辛抱強く見守る先生。
 朝の食卓で、母がミルクを飲みなさいと言うのに、嫌いなミルクを目で父に合図して、代わりに父にミルクを飲んでもらう。
 母がケーキ作りの途中に、卵が必要なのでユスフに鶏小屋へ採りに行かせるというお手伝い。
 朝起きて、夕べ見た夢の話を、ユスフが父と交わす耳元でささやく二人の秘密の会話。
 父と母との絆(きずな)の機微を、自然の音だけで静謐な映像美で描き出す。
 空を舞う鳥の群れ、山奥の谷川のせせらぎ、野生の鹿。
 森の奥に蜜蜂を求めて出かけて行った父が帰ってこない。
 戻らない父を待ちつづけるユスフとユスフの母。
 母は、茶畑で茶葉の採取で働いている。
 だが心配で、ユスフの母は、町まで降りて、警察に夫の行方不明を届けるのだった。
 満月の夜、容器に入った水に月が映っている。
 ユスフが、その月を手にすくう場面で、水がかき乱されて月の姿が崩れてゆれ動く。
 だんだんに動きが収まって、再び元の平静な水面に戻り、満月が再び映る。
 ラスト、ユスフが学校から家に帰ると、家に警察から捜索の結果が知らされている場面に出くわし、カバンを捨ててさ迷うように森に向かうユスフの姿が胸をしめつける。