12日、「喜劇映画の異端児 渋谷実監督特集」の一本、『正義派』(1957、松竹、91分、白黒)を観る。
出演は、佐田啓二、久我美子、三好栄子、田浦正巳、望月優子、野添ひとみ、伊藤雄之助、山内明、三井弘次。脚色は、斎藤良輔、馬場当。
プログラムに、
志賀直哉の小説『正義派』と『清兵衛と瓢箪』をもとにした作品。バスの事故をめぐって、修理工の青年は正義感から先輩の運転手に不利な証言をしてしまう。青年とその母を中心に、下町に暮らす人々の人間模様を描く群像劇。(東京国立近代美術館フィルムセンター所蔵作品)
東京のバス会社の運転手藤田(佐田啓二)は、同僚のバスの修理工をやっている清太郎(田浦正巳)の母・お京(三好栄子)からアパートを紹介してもらい引っ越しした。
病弱の駆け落ちした葉子(久我美子)と暮し始めた。
お京は世話好きでおしゃべりで、今は時代遅れになった闇屋稼業をしている。
息子の清太郎はそれを止めてくれと願っているが、まったくお京は意に介さないのだった。
ある日、突然藤田の父が東京へ上京して来ることになった。
お金がないので会社の監督・香川(伊藤雄之助)に前借りを頼むが駄目だと言われ、同じ目にあった同僚の青木(三井弘次)と、お京の幼なじみのお春(望月優子)の定食屋で酒を二人で酔いつぶれるまで飲んだ。
二人が管(くだ)を巻き酔っぱらう様子に、思わずにやりとする。
三井弘次と佐田啓二の演技が見ものだ。(黒澤明の『どん底』での三井弘次の酔っぱらった演技以上かも。)
定食屋に香川の親戚の勤め人の高岡(山内明)が間借りしている。
高岡が福島へ転勤するのに、お春の娘・町子(野添ひとみ)に一緒に嫁に来てくれないかという高岡の話に、お春は乗り気である。
藤田と青木の二人が酔っぱらった翌朝、藤田は朝の勤務のあと、操車監督の香川(伊藤雄之助)から故障したバスの代車に急遽バスを運転して修理に、修理工の清太郎を乗せて行ってくれと命じられる。
だが、故障バスの現場への途中で、運転していた藤田は曲がり角で気づくのが遅れ、幼い子どもにぶつけてしまう。
事故の責任をめぐって会社では、藤田に前科が付くのを避けようと、被害者の子どもが飛び出したと口車をあわせようとした。
だが、同乗していた清太郎は正直に、藤田に不利な証言を警察にしたのだった。
藤田に前科がつかないようにと会社側は配慮したので、清太郎は一人浮き上がってしまう。
正しいと思って証言したが、香川(伊藤雄之助)や同僚の青木(三井弘次)らからもあてつけるような皮肉を言われてショックを受ける。
居たたまれなくなった清太郎は自分を分かって欲しいと、母親のお京にことの次第を伝える。
お京は息子の主張が正しいと同意し、息子は正しいことをしたと言うのだったが、皮肉にも警察から捜査官がやって来て逮捕され取り調べられる。
藤田の父が上京して来たので、身支度のためにお京が葉子をさそって銭湯に行った時拾った時計を質屋に入れていたことが露見し、闇物資を扱っていることもバレたからだった。
これでは、いくら息子が正しいと言っても、お京自身が不正を働いていたのでは説得力を欠く。
お春の娘・町子(野添ひとみ)は高岡ではなく幼なじみの清太郎に気があるのだが、清太郎はその気にならないので心配でやきもきしている。そのしぐさがいい。
ラストは、保釈され帰って来て、清太郎にあやまるお京だったが、清太郎は優しく母をいたわる言葉を言い、会社へ行って来ると出かけた。
ふと見ると町子と清太郎が仲良く並んでいる姿が見られた。
そして、お京は家の外の水路の水面に清太郎が集めていた瓢箪がプカプカと浮いているのを見つけると棒で引き上げようとするのだった。(清太郎は瓢箪コレクターで誰からもその趣味を分かってもらえなかった。自暴自棄になったときに瓢箪を家から外の水路へ投げ捨てていた。)
佐田啓二と久我美子の二人の愛情深い様子、三好栄子と望月優子の幼なじみで二人とも世話好きでおしゃべりで欲の深いところ、その子供の清太郎(田浦正巳)と町子(野添ひとみ)の幼なじみの恋のゆくえ、伊藤雄之助、三井弘次らの脇役陣の演技も好かった。
渋谷実監督はもっと評価されてもいい監督だと思われる。