『山中暦日』を読む

 山吹(やまぶき)の花が咲いた。八重咲きの花である。
 色は鮮やかな光のある黄金色の花弁(はなびら)である。 

バラ科の落葉低木。山間の湿地に多く、群生する。葉は互生し、卵形で先がとがり、縁に二重のぎざぎざがある。晩春、黄色の五弁花を開き、実は暗褐色。古くから庭木とされ、八重咲きのものは実がならない。  『大辞泉

 「ほろほろと山吹散るか滝の音」、芭蕉からの引用句。

 辻まことアンソロジー、『山中暦日』(未知谷)を読む。
 柴野邦彦氏の編集・解説による辻まことのアンソロジー集である。
 「無法者のはなし」がめっぽう面白い。
 ある年の三月、山歩きをしていて尾瀬の南端を通過してS沢の近ごろは廃鉱だというウワサもある小屋にたどり着くと、老若六人ばかりの人夫がいて一晩泊めてもらって、ふもとの町まで降りて、顔なじみの宿に泊まった。
 という話なのだが、ラストの一文が落語の終わりの落ち、洒落(しゃれ)のようだった。

 ――だがな、この人の風体をごらんよ
  私を指して亭主がいった。
 ――おどし取るようなものをもっているようには誰にもみえまい

 巻末に、辻まことについて「居候で候」と題して柴野邦彦氏が書いている。

山中暦日―辻まことアンソロジー

山中暦日―辻まことアンソロジー