映画『女狙撃兵マリュートカ』


 「ロシア・ソビエト映画特集」が、5月1日から映像文化ライブラリーで始まった。
 《敵対する2人の兵士の愛を描き、カンヌ国際映画祭で審査員賞を受賞した「女狙撃兵マリュートカ」、19世紀のロシア貴族の悲恋を描いた「貴族の巣」、地方駅を舞台にウエイトレスとピアニストの出会いと愛の顛末を描いた「ふたりの駅」など、ロシア・ソビエト映画の秀作6作品を上映します。》

 初日、グリゴーリ・チュフライ監督の映画『女狙撃兵マリュートカ』(1956年、93分、カラー)を観た。
 出演はイゾルダ・イズヴィツカヤ、オレグ・ストリジェーノフ、ニコライ・クリューチコフ。
 五月プログラムより引用。
 マリュートカは、負傷した敵兵士を船で護送することになるが、船は難破し孤島に漂着する。そこで2人だけの生活が始まり、やがて2人の間に愛が芽生えるが・・・。1917年の内乱時代を背景にした孤島の男女の物語。カンヌ国際映画祭審査員賞受賞。
 マリュートカ(イゾルダ・イズヴィツカヤ)は赤軍の狙撃兵で狙った敵を一発で倒す腕前の持主である。
 彼女の属する部隊は砂漠を通りかかる敵の白軍の騎兵部隊を待ち伏せ攻撃していた。
 また食料に事欠き、砂漠で遭遇したラクダを引き連れた遊牧民の隊列を襲ってラクダや食料を奪っていた。
 砂漠の民にとってラクダを奪われる事は死活問題になるのだが、前線の赤軍の部隊はそんなことは無視して接収した。そのため遊牧民は白軍の司令部へ訴えに行った。
 赤軍の部隊が移動し戦闘する砂漠の映像美が圧倒的に素晴らしい。映像詩とでもいえる美しさである。
 そんなある日、白軍との戦闘で、41人目にマリュートカが一撃で倒したつもりだった白軍の将校(オレグ・ストリジェーノフ)は負傷して生き残った。将校は衣服に密書を隠していた。
 密書は将校が司令部へ行って口頭で報告するようにと書かれていた。
 口を固く閉ざして喋らないので、将校の男を赤軍の司令部へ部隊の隊長は護送する事に決めた。
 その護送のためにマリュートカを含めて3人の兵士でカスピ海を帆船で渡ろうと出発した。
 途中、猛烈な嵐に遭い、帆船は難破した。嵐の海の荒れまくる映像が凄まじい。 
 ほうほうのていで海岸へ漂着したのは捕虜の将校とマリュートカの二人だけであった。
 他の二人は海に放り出されゆくえ不明になった。
 運よく孤島の砂州にたどり着いた二人の敵同士の男と女の兵士が救援が来るまでを、無人だった漁民の小屋を利用してロビンソン・クルーソーのように生きるのだった。
 いつしか、二人のあいだに反目と同情心や愛情が育ち始めるのだったが・・・。
 ある日、海の彼方に船が現われた。
 合図に銃を空へ撃って孤島にいることを知らせようとした。
 船が近づいて来る。
 白軍の船だった。
 将校の男は、気がつくと船に向かって必死に駆け出した。
 マリュートカは護送の任務に忠実にしたがって、銃を構えると逃げ出した男へ狙いを定め撃った。
 ラストシーンに声を呑む。脚本、撮影技術、役者と凄い傑作である。