「山村民俗随談」のこと

《私は定年を迎えて最後の職場を離れるとき、これからあとは柳田国男長谷川伸を読んで暮そうと思うようになっていた。二人の全集を手元において、読み直したり、ひろい読みしたりして過そうと、ひそかな楽しみにしていたのである。》と「波」4月号で、「ハイカラな本にはロクなものがない」(山折哲雄)が述べていた。

 ところで、柳田国男全集に収録されていない文章がある。
 「山村民俗随談」という柳田国男への聞き書きである。
 聞き手は川崎隆章で、つぎのような経緯で成ったものだ。
 [附記] 戦後「山と渓谷」に御執筆を乞うたが、御多忙の柳田先生にはそれが許されず、私との座談を適当に記文としてまとめて出すことは差支えない、ただし速記者では困るというので、久し振りにまた私が成城の柳田邸へ出向いた。
 別に何をまとめて話すというのでなく、文字通りの山村民俗随談を二時間許り行い、それを取りまとめたのだが、先生にはそれに目を通すとなると又時間をくい労力を費やすから一切出来た原稿には触れないということで、発表される運びとなった。
 この中のどの一つの章をとっても一冊の単行本となるテーマである。それをこのように断章としてかいたので内容的にも先生の意を尽くしていない。だが古稀を迎えられた、そしてかつては日本山岳会員でもあった先生の山への愛の片鱗を私たちはこの中から汲みとることにしたい。(川崎隆章)

 一つの章それぞれ短いのだが、語られたエピソードがとても興味深い。
 柳田国男は歩く人だということがエピソードからも分かる。
 藤木九三・川崎隆章編集の『山の風物誌』(河出書房)に収録されている。