眠らばや落ち葉を払うことなかれ

 先日のNHKのカルチャーラジオ日曜版の「人間を考える〜父の想い出(1)中村メイコ」という番組で、中村正常の言葉で、「眠らばや落ち葉を払(はら)うことなかれ」という話に興味を持った。
 中村正常の死後、金庫の中から出て来た色紙に「眠らばや落ち葉を払(はら)うことなかれ」というたった一枚の色紙を残していた。その色紙は、五・七・五に、なっている。
 黙って眠らせてくれよということですよね。
 後に、メイコさんがイギリスへ行った時に、シェークスピアの墓石に中村正常の色紙の言葉と同じようなことが書かれていたそうだ。

 それでという訳ではないが、「ラジオ深夜便隠居大学第二集 人生は第二幕が面白い」を読んでいる。
 隠居大学(自称)学長の天野祐吉さんが開講の辞を述べている。
 当学は知識を学ぶ場ではない。知恵を磨く場である。なまじっかな知識は、隠居を目指す人にとって、かえって邪魔になる。そうではなくても老人は物忘れがひどいので、知識なんか学んでもすぐに忘れてしまう。その点、知恵はおでこのシワみたいなものだから、いちど身につけたら一生モンだ。(中略)その人たちの話から知恵を盗むことこそ肝要である。諸君、心して盗め。
 隠居大学の学長がインタビューしている一人に中村メイコさんがいる。

 中村 「どういうことだろう」と私が尋ねたら、母は「いま私がベッドの下を探したみたいに、死んだあとにお墓の掃除と称して余計なことをするな、ほっといてくれってことよ。パパらしいわね」と言ってましたね。それでね、私、だいぶあとになってイギリスに行ったときに、シェークスピアのお墓を訪ねたことがあったんです。で、墓石に何か書いてあるから聞いてみたら、「余が眠っている墓を動かすようなことはするな」というようなことがシェークスピアらしい言葉で書かれていた。「なんだ! 父はこれを真似(まね)したんだ!」って(笑)。父はシェークスピアが好きでしたから。それで父のことがいろいろ思い出されて、なんだかとっても哀(かな)しくなって、やっぱり、人が死んだらあんまり詮索しないものですね。  156ページ