「焼芋、二十円ちょうだい」2

 新潮社のPR誌「波」2015年1月号の香川京子川本三郎の対談を読む。
 タイトルは「行きつく映画は成瀬巳喜男」、副題に――名女優と語る〈静かな巨匠〉の面影。

 成瀬巳喜男監督の映画で、「驟雨」についての談話が楽しい。

 川本 成瀬って、お金に細かいんですよね。香川さんも出演した「驟雨」では、あの原節子に「焼芋ください」ではなくて、「焼芋、二十円ちょうだい」と言わせたり。
 香川 原さんがああいう役をなさるの、面白くて大好き。「驟雨」で、夫役の佐野周二さんと口論しながら、お台所で立ったままでお茶漬けをかきこんだり。小津組ではめったに見られないシーンでしょう?(笑)
 川本 成瀬にかかると、原節子でも急にヌカミソくさくなる(笑)。小津の「麦秋」(51年)では、原節子は銀座であの頃まだ贅沢品だったケーキを買って来るのに、成瀬では焼芋、それも二十円だけ。
 香川 それに、女の人の嫌な面も描きますしね、小津監督の原さんと、成瀬監督の原さんは随分違いますね。  20ページ


 この対談は、川本三郎著『成瀬巳喜男 映画の面影』(新潮選書)の出版記念対談ということですね。
 川本さんは原節子の「焼芋、二十円ちょうだい」に注目しているようですが、わたしはラストの場面で夫役の佐野周二と妻の原節子紙風船を突(つ)いて庭で遊んでいるのがすがすがしく印象的でした。

成瀬巳喜男 映画の面影 (新潮選書)

成瀬巳喜男 映画の面影 (新潮選書)