小津安二郎監督の映画「出来ごころ」

 小津安二郎監督の特集が1月から3月にかけて、1929(昭和4)年に公開された「学生ロマンス 若き日」から1962(昭和37)年の遺作の「秋刀魚の味」までの現存する全作品の上映会が映像文化ライブラリーで開催された。 
 この機会を見逃してはならぬと寒気が厳しい中を通ったものだ。
 フィルムを映写機を通してスクリーンで見るというのが、そしてその時間を過ごすというのがなんと贅沢なことかと思うことがありました。
 館内から観客のくすくす笑いや爆笑が聞こえて来るのも愉しいものです。
 昭和の初期の映像のアルケオロジー(考古学)として小津の作品を見つめているのですが、サイレント(無声)映画が三本が伴奏つきで上映されたのも有難いことです。
 当時の観客は音楽の伴奏や活動弁士の語りで映画を観ていたわけですからね。
 その点で、サイレント映画に音の伴奏によるコラボレーション(共同作業)があることで、少しだけでもサイレント映画時代を再現していてその雰囲気を味わえたわけです。

 1月の一本。小津安二郎監督の「出来ごころ」1933(昭和8)年、松竹蒲田、100分、白黒、無声。
 この作品はピアノの伴奏つきでした。演奏は山下雅靖氏。
 上映前にS学芸員の解説が充実していた。1933年度キネマ旬報ベスト・テン第一位。

 出演、坂本武、伏見信子、大日方伝、飯田蝶子、突貫小僧、谷麗光。

 息子と二人暮らしの喜八は、身寄りのない娘春江の世話を焼き、彼女にぞっこんとなる。が、春江は喜八の仕事仲間の次郎に思いを寄せていた。東京の下町を舞台に、喜八をとりまく人々の人情の機微と親子の情愛を描く。  (特集パンフレット「サウンド・アンド・サイレント」より)
 ビール工場に勤める喜八を坂本武、同僚の次郎を大日方伝、喜八の息子の富夫を突貫小僧、床屋を谷麗光、春江を伏見信子、食堂の主(あるじ)を飯田蝶子が演じている。
 失業して身寄りのない娘春江を、喜八は同情して行きつけの食堂に住み込みで雇ってもらう。
 息子の富夫(突貫小僧)と喜八(坂本武)の親子喧嘩で突貫小僧のふて腐れる表情が印象的だ。
 親子の哀しい情愛がほろりと泣かせる。子役の突貫小僧が名演技している。
 落語の人情噺を思い起こさせる。
 ビール工場の場面では撮影はロケーションをしているようだ。
 ラストに喜八が北海道へ働きに行くことになるのだが、残した息子富夫のことを思った喜八が船から川へ突然飛び込むシーンに驚かされた。大胆な演出!

 左の写真の左側が伏見信子、右側が坂本武。
 右の写真は突貫小僧と坂本武。