『ぼくの特急二十世紀』


 街路樹のナツメの木に小さな花が見られた。赤い実が毎年鈴なりになる。
 クマノミズキには白い小さな花が密集して咲いていた。

 熊野水木(くまのみずき) ミズキ科の落葉高木。葉は対生し、卵状長楕円形で裏側は白色を帯びる。六、七月ごろに白色の小花を密集してつけ、果実は黒く熟す。  『大辞泉


 双葉十三郎著『ぼくの特急二十世紀』を読了。副題が「大正昭和娯楽文化小史」。
 
 カバー見返しに、
 内外の映画はもとより草創期からの新劇、宝塚や松竹などのレヴュー、エノケンやロッパの軽演劇、戦後のミュージカル、欧米の探偵小説に到るまで、九十年以上娯楽文化に親しんできた至宝の評論家の自伝。
 「はじめに」によると、本書の題名は、著者の双葉十三郎さんのゴヒイキの作品の一つであるハワード・ホークス監督のゲラゲラ笑える恋愛コメディ映画「特急二十世紀」(1934年)にあやかって付けたそうだ。

 《(前略)あやかったとはいえ、本書はその映画とは内容がまるで違っていて、こちらは、一般的に暗く悲惨な時代といわれている戦前昭和が、じつはいろいろな娯楽や文学作品など海外からの移入を土台にした、いかにすばらしい発展の時代だったか、戦後それがどう変化したかを、ぼく個人の体験を通じて特急でしゃべらせていただいたものです。  8ページ》

 一月から三月にかけて小津安二郎監督特集があって、現存する小津監督の全作品が上映されたのですが、俳優の伊達里子や岡田嘉子岡田時彦や高田稔、川崎弘子や田中絹代、坂本武や斉藤達雄、吉川満子や飯田蝶子、三井秀男(三井秀夫)や結城一郎、江川宇礼雄や突貫小僧の出演している昭和四年から昭和八年にかけての作品に注目しました。

 双葉十三郎さんの『ぼくの特急二十世紀』を読むと、この時期の世相が双葉さんの目を通して鮮やかに描かれています。映画や軽演劇「カジノ・フォーリー」「ムーラン・ルージュ」などに通いはじめた双葉さんの話は大変に興味深いものです。