「戦禍に生きた俳優たち」のこと

 講談社のPR誌「本」の連載で「戦禍に生きた俳優たち」(堀川惠子)を毎回楽しみにしている。(筆者の堀川惠子さんは、8月5日の中国新聞に文を寄せていた!)
 今月の9月号は、「伝説の舞台から『無法松の一生』へ」と題して、堀川さんは俳優の丸山定夫の演技について、近藤富枝さんを二〇一五年一〇月に訪ねて聴いている。
 昭和十七年(一九四二年)五月、丸山定夫文学座で主演した『富島松五郎伝』の舞台についてです。

 その一部を引用すると、

 「演劇というのは文学と同じ。良い文学を味わうのと同じなの。男と女の愛情って普遍的なものよね。身分が違おうが問題じゃない。人を好きになることくらい、真実なことはないから。それがちゃんと芝居に、脈々と出てくるの。芝居を見て、そんな感情を持てることは、人間として素晴らしい経験なのよ。丸山がね、それだけの感動をあたしに与えてくれた。あの頃、こういう芝居は他では見なかったもの。大した腕なのよ。丸山定夫の演劇魂、文学魂っていうのは、すごいんじゃやない?」
 話を聴き終えて、ふと気づいた。近藤さんは、後に丸山とともに広島へ向かうことになる女優、森下彰子と同い年だ。あの時代、丸山の演技は多くの若者たちを魅了していた。  27ページ