温泉旅日記

 清水宏監督の映画「簪(かんざし)」(1941年、松竹・大船)は、山梨県下部温泉が舞台で、井伏鱒二の「四つの湯槽」の映画化作品。

 池内紀著『温泉旅日記』の「ほうとう記」は、下部温泉への日帰り温泉旅日記。

 《昼すぎに用事が終わったりした日など、新宿駅に特急が入ってくるのを見るとヒョイと跳びのりたくなる。》

 源泉館の風呂と外の食堂兼飲み屋の食べ物、ほうとうに熱カンで一杯。

 《とっぷりと昏れた下部駅にふやけぎみの体を運びこむ。待つことしばし、暖房のきいた電車がやってくる。あとはうたた寝の戻り旅。ほうとう記、あるいは、わが放蕩(ほうとう)記。見る人がみれば、しみったれた遠出にすぎないだろうが、当人は大満足なのだ。座席にゆったりと腰を沈め、顎(あご)に手をあて、みちたりた顔で窓外の夜景をながめている。こころなしか、その顔が福々しい。

 いま気がついたが、もう何度となく、このようなブラリ甲州ほうとう温泉日帰り旅をやってきた。》

 

温泉旅日記 (徳間文庫)

温泉旅日記 (徳間文庫)