「没後50年 成瀬巳喜男監督特集」からの一本、成瀬巳喜男監督の映画『めし』(1951年、東宝、97分、白黒、35ミリ)を鑑賞。
出演は、上原謙、原節子、島崎雪子、大泉滉、浦辺粂子、二本柳寛、杉葉子、杉村春子、小林桂樹、長岡輝子、山村聰。脚本は井手俊郎、田中澄江。
林芙美子の絶筆となった未完の小説の映画化。倦怠期にある夫婦が、ささいな出来事からしだいに亀裂を深めていくさまが描かれる。人物の微妙な心理や生活感を、きめの細かい演出で見せ、成瀬巳喜男監督の戦後の復調を示したとされる作品。(特集パンフレットより)
舞台は、前半は大阪で、後半は東京である。東京から家出して来た妻の姪(島崎雪子)と夫(上原謙)が妻(原節子)を家に残して、大阪を観光バスで遊覧するシーンがあるのだが、バスガイドが戦後六年目の大阪の北浜、御堂筋、大阪城といった復興した都市を案内する。映画で当時の大阪へタイムスリップした気分になる。
後半、夫に失望した妻が東京の実家へ大阪へ夫を残したままで、里帰りをする。衣料品店を営む妹(杉葉子)とその夫(小林桂樹)の夫婦、母(杉村春子)のところへ帰って安心感からか、ぐっすりと眠り、長い眠りから覚めた原節子の表情がさっぱりとしている。
台風がやって来て夜の暴風が通過した翌朝の晴れ上がった空と屋根に上がって修復している小林桂樹の作業姿がのどかな一日を予感させる。
思いがけなく大阪から仕事で上京してきた夫(上原謙)と路上で出くわすシーンも印象的だ。ラストの汽車で二人、大阪へ戻るシーンも。倦怠期の夫婦の繊細な感情をうまく表現している。