東京ひとり散歩

 晴れて陽射しが強いが、低温で厳しい寒さがつづく。柑橘類の八朔の黄色い色が明るい。
 嵐山光三郎『「下り坂」繁盛記』と池内紀『東京ひとり散歩』を読み終える。
 『「下り坂」繁盛記』のなかで、「ひとつとなり」という文がちょっと面白かった。
 嵐山さんは池内紀著『ひとつとなりの山』の登山記をめぐって、「ひとつとなり」という池内さんの目のつけどころが気になる。

 ひとり登山して、うしろに人の気配がすると、すぐに「どうぞ」とやりすごす。足音に追われるのはイヤなものだし、自分のペースで歩きたい。
 すると、池内さんの初恋の人があらわれる。昔の姿のまんまで、ポニーテイルと呼ばれた当時はやりの髪型で、頭の中に浮かんでくる。今川焼を食べながら、二人でしきりに歩きまわった記憶。そうだったのかあ。昔の女に会いに行くんですね。そういうコンタンとは気がつかなかった。  169ページ

 一方、『東京ひとり散歩』には、

 電車のつり革を握っているときなど、ひとり対話にうってつけだ。ケータイの対話だと、目を据え、せわしなく指を動かさなくてはならないが、ひとり対話は目をつむっていていいし、指などいらない。たとえば初恋の人を呼び出すとする。丸顔で、目が大きくて、髪はあのころはやっていたポニーテイル。笑うと右頬にエクボができた。彼女とはたいてい映画の話をしていた。だからひとり対話でも、つい先だって試写会で見た映画のことを話すとしよう。この間はおのずと二十代はじめの青年になっている。  「はじめに」

 
 あとがきによると、この本は池内さんの自分なりの東京論だそうだ。

東京ひとり散歩 (中公新書)

東京ひとり散歩 (中公新書)