『血と霊』の映画化

 クルミの実が茶色に色づいてきた。

f:id:kurisu2:20210819165632j:plain

 「図書」8月号の連載「大泉黒石」12(四方田犬彦)で、今月号のタイトルは、「『血と霊』の映画化」。

 大正十二年(1923年)に大泉黒石が書き上げた『血と霊』という一二〇枚ほどの短編を原作に日活向島撮影所で撮影された映画『血と霊』の顛末が興味深かった。

 一部引用してみると、

 《一九二三年五月、今や押しも押されもせぬベストセラー作家となった黒石は、日活向島撮影所に入社する。本人は最初、俳優部を志望したが、結局、脚本部顧問という地位に落ち着いた。》

 

 当時、監督として前年にデビューした溝口健二が担当することになった。

 この作品は日本で最初の「本格的表現主義映画」という前評判のもと関東大震災の混乱冷めやらぬ東京の劇場で十一月九日に上映がなされたが、黒石と溝口による合作はほとんど評価されることなく、忘却の縁に沈むことになったという。