長谷邦夫の『赤塚不二夫天才ニャロメ伝』

冬のカモ

 竹の篊(ひび)が川の中に立っている水面に、白いカモメが点々と集まってあちこちに散開していた。正午過ぎの空は晴れて陽射しは強く風もあった。川を渡っていると今度はカモが少数の群れで、川岸の浅瀬に浮かんで動きまわっていた。足元の岩などに生えている海藻を食べている様子だ。からだの色や模様から、カモの仲間のヒドリガモだった。雄は頭部が茶色、雌は全体が褐色で目立たない姿だった。
 『ユリイカ』2006年2月号は「特集 マンガは芸術(アート)か?」。椹木野衣伊藤剛の対談を読んだときに、椹木野衣が「そこには、岡本一平岡本太郎タイガー立石赤塚不二夫というラインがあるわけです。美術史だけ見ていてもわからないし、マンガ史だけ見ていても絶対に見えてこない。美術とマンガをクロスさせた表現史が必要とされるゆえんです。」と語っていた。
 その赤塚不二夫についての長谷邦夫の『赤塚不二夫 天才ニャロメ伝』を読んだ。この本は『漫画に愛を叫んだ男たち トキワ荘物語』が文章による本とすれば、マンガによる赤塚不二夫物語と長谷邦夫の自伝的な話やエピソードが描かれたマンガ本である。長谷邦夫さんが貸本マンガが衰退して来ても、貸本マンガの単行本をかなり遅い時期まで描かれていたこと、このあたりの話を、たとえば今月発行される『貸本マンガ史研究』などで聞書きというか、貸本マンガを描かれていた時期の話などを読んでみたいものだ。貸本マンガの実作者という立場から・・・。
 ほかにこの本で気づいたことは、『漫画に愛を叫んだ男たち トキワ荘物語』でふれておられなかったアシスタントの人たちの中で木崎しょうへい(笑平)氏のエピソードが、この本では描かれていた。長谷さんのパロデイ漫画の作画における木崎しょうへい氏の登場人物など、顔の似顔絵部分の協力といったことも記されていればとも思ったりした。
 六十年代後半に筒井康隆SF小説をパロディマンガにされていたというセンス、これがすごい。素晴らしいと思う。
 アメリカのコミックでMADの影響のことなども面白い。
 もっと書きたいが、今日はこのへんで。
 書店の新刊棚で、吉田健一の『酒肴酒』(光文社文庫)が出ているのに気づいた。即、購入する。1985年に同じ光文社文庫で出ていた『酒肴酒』と『続酒肴酒』という文庫本を一冊にまとめたものらしい。こちらは、両方とも持っている。持っているから別に買わなくてもいいのだが、今回の一冊にまとめた文庫の解説が、坂崎重盛である。解説を読むだけでも買いだ。前に出た文庫の方は解説が、それぞれ丸谷才一篠田一士だった。