吉田健一の『酒肴酒』

 イタリアのトリノ冬季オリンピックが始まる。開会式に目をみはった。スキージャンプを人による絵で表現していた。その絵を変化させながらの動きが面白かった。人が集まって移動しながら全体で一つの形を作る。人文字ではなく人絵だ。それも人絵アニメ(?)。イタリアの未来派をイメージしたかのような演出、出し物が楽しませてくれた。
 吉田健一の『酒肴酒』*1が、光文社文庫で復刊された。1985年に同じ光文社文庫で出た『酒肴酒』*2と『続酒肴酒』*3の二冊を一冊にまとめている。『酒肴酒』の解説は丸谷才一による。『続酒肴酒』の方は篠田一士である。
 この解説が、いい。とくに丸谷才一の解説の最初の十四行を読むと、紫式部芭蕉夏目漱石だって色あせて見える。本当はそうではないのだが、丸谷才一の筆にかかるとなるほどねと、ついついそう思い込まされてしまうから始末がわるい。
 今度、復刊された『酒肴酒』の解説は随文家の坂崎重盛氏である。わたしは、すでに吉田健一の二冊を持っている。持っているけれども、坂崎重盛氏の解説を読みたいがために買った。

 私には、隅田川に対して可愛さあまって憎さ百倍の、その江戸通文学者の名が想像つくが、まあ、そんなことはどうでもいい、その「どぶ水も同然」の川を舞台に、夢幻の世界を綴ってしまう、吉田健一の駘蕩たる豊かさ、美を感じる力こそが宝だと思うのだ。
 この文庫一冊には、選りどり見どりの宝石がザックザック入っている。  427頁

 この解説を書いた坂崎重盛氏には、先月(1月)に出た『「秘めごと」礼賛』*4(文春新書)もある。しばらく目が離せない人だ。
 先月亡くなられた河原淳さんと坂崎重盛氏のことなども気にかかるなぁ。