色川武大の『寄席放浪記』

ナツメの実

 街路樹のナツメの木に実が大きくなっていた。花が咲いていた頃から、実が付いて成長するまでが、随分速い。花は六ミリほどの大きさで黄緑色。実の色は、まだ黄緑色をしたままだ。
 色川武大阿佐田哲也)の『寄席放浪記』(廣済堂出版)を読む。初版は1986年10月。二刷が平成元年7月。二刷版を読む。まえがきにあたる「昔、僕は席亭になるのが夢だった」の結びに、

 たくさんの出演者が出てきても、本当にいい高座は一夜に一つあるかなしかで、大部分は辛抱してきかなければならない。退屈な寄席というものは、相当に苦痛で、居ても立ってもいられない。なぜ自分は貴重な時間をこんなところですごしているか、と思う。ところがそこに中毒してくると、まさにその退屈を味わいに来ているので、そこが贅沢な遊びだということになるのだ。落語の「あくび指南」の、舟で退屈している若旦那の心境に似ているかも知れない。
 ま、ひとつ、この本で、贅沢な退屈というやつを味わってください。  5〜6頁

 「林家三平の苦渋」「名人文楽」「志ん生と安全地帯」と、そのあとの矢野誠一との対談「寄席通いがぼくらの日課だった」が、なるほどね、と面白かった。
 色物芸人たちの世界では、対談「一芸に賭ける芸人たち」というタイトルで、立川談志との話があり、その芸人たちのエピソードが、可笑しい。