菊花祭の舞楽を観る

納曽利

 昨夜、NHKテレビのETV特集が「21世紀のドストエフスキー〜テロの時代を読み解く〜」を放送していた。
 光文社古典新訳文庫の「カラマーゾフの兄弟」の訳者亀山郁夫氏が、作家の加賀乙彦金原ひとみ森達也の各氏に聞く。ドストエフスキーの魅力と意義をめぐる談話が面白かった。映像では、ペテルブルグのネヴァ川を見れたのが、感慨深い。安岡章太郎の『ソビエト感情旅行』で、小林秀雄がネヴァ川を見にホテルから出かけていったときのエピソードを思い出す。
 夕方、フェリーで宮島へ渡る。甲板の上から、南西の晴れた空に三日月と木星が並んで輝いていた。
 参道の途中のやまだ屋で、もみじ饅頭を買う。レモン、みかん、つぶあん、栗っ子、紅芋もみじ、抹茶、クリーム、チーズクリーム、チョコもみじという名前のもみじ饅頭があって、選ぶのに迷うほどだ。
 足元の見えない参道を歩いて、右手の海中に大鳥居を目にして、厳島神社にたどり着く。暗い回廊を進み、今夜の菊花祭の舞楽の行なわれる高舞台に近づくと、観客で一杯だった。まだ、始まっていなかった。
 6時45分過ぎから、菊花祭の舞楽がはじまった。
 観客は、平舞台の帆布のベンチに腰掛けてみる。他は、立って見たり、床に座って見たりしていた。百五十人以上の人が集まっていた。
 振鉾(えんぶ)の二人舞、萬歳楽(まんざいらく)の四人舞、そして延喜楽(えんぎらく)の四人舞と見る。
 この後、神官が二人登場して、高舞台に活けてある菊の花を持って、本殿へ献花する儀式があった。
 そして、一曲(いっきょく)の二人舞。鼓を打ち鳴らす。
 そのあと、四角の雑面(ぞうめん)をつけて舞う蘇利古(そりこ)、これは四人舞。その後、一人舞が、散手(さんじゅ)、貴徳(きとく)、蘭陵王(らんりょうおう)とつづく。勇壮な舞いで、動きが速く、足の運び方、使い方に特徴がある。気品がいずれもある。観ていると、活発で変化に富み面白い。装束も仮面も素晴らしい。
 最後が納曽利(なそり)の二人舞で、舞いは終わった。9時をまわっていた。
 このあとは、長慶子(ちょうげいし)という曲が演奏されるだけである。納曽利を観た後、長慶子を聴きながら平舞台を後にした。平舞台の下は、今夜は海水が見えなかった。
 参道は暗くなっていて、夜空を見上げると、一面の星空だ。天の川が見えた。フェリーの港までの道中、何頭もの鹿が横になって、歩道のすぐそばで眠っているのだった。