サッシャ・ギトリ監督の『あなたの目になりたい』

 日仏交流150周年記念、映画祭「フランス映画の秘宝」を映像文化ライブラリーで開催し上映している。
 サッシャ・ギトリ監督の『あなたの目になりたい』(1943年、フランス、90分、白黒)を観る。
 映画は冒頭、パリのエッフェル塔が見え、二人の若い女が歩いて美術館へやって来る場面から始まる。二人のファッションが素敵だ。
 美術館へ芸術家たちが展覧会への作品を搬入する日なのだ。この日は関係者だけが美術館へ入館が許されている。
 二人の若い女の一人はモデルで、入館の許可書のカードをもっている。連れの若い女は持っていないので入れないと入り口の係りの男が言う。
 すると、その光景を見ていた館内にいた一人の男が近寄って来て、館内へ入れるようにしてくれる。そして、是非、彫刻のモデルになってくれと連れの若い女に申し出る。
 男は初老の彫刻家でフランソワといい、若い女はカトリーヌという。
 カトリーヌは両親を亡くして祖母に引き取られて二人で暮らしている。
 カトリーヌは承諾して、アトリエへモデルとして通いはじめるようになるのだが・・・。
 もらったパンフレットの解説文によると
《彫刻家のフランソワは、美術館の会場で出会った若い女性カトリーヌにほれ込み、モデルを頼む。相思相愛になり順調に見えた2人だったが、突然フランソワはカトリーヌに冷たい態度を取るようになる。理解できないカトリーヌだが、彼のそのような態度には理由があった。監督と当時の妻が、実際にカップルを演じたエレガントなメロドラマ。》とある。
 たしかにメロドラマ的な装いをしたラブロマンス映画なのであるが、当時のフランスは第二次世界大戦が始まっていて、しかもドイツに占領されている時期である。
 冒頭の美術館の中で登場人物が、「1871年普仏戦争に負けた年に、これらの絵画が描かれたのだよ。」と、美術館の中に展示された絵画を何点も見せながら感慨深く話す。
 この絵は誰々が描いた有名な作品だ。なぜ、この時期(普仏戦争に敗北した時期)にフランスに傑作が集中して作られたか。
 そして、こう付け加える。
 フランスは戦争に負けたが、文化で勝利したんだと。
 この映画の公開されたのが、1943年である。
 映画の中で、一箇所(ドイツに)占領されているのは不満だというせりふがあった。
 さり気なくこのせりふを映画の中で話させているように思えた。