ジャリリ監督の『トゥルー・ストーリー』

5月プログラム

 5月は「奇蹟の映像 アボルファズル・ジャリリ監督特集」を映像文化ライブラリーで開催している。
 1日の『トゥルー・ストーリー』(1996年、イラン、125分、カラー)を観た。
 映画の始まる前に、ロビーにあるテーブルに展示されているペルシャ絨毯(じゅうたん)、コーラン、ハーフィス(Hafez)というペルシャの詩人の詩集を手にとって眺める。
 コーランを開いてみるとアラビア語で書かれている。小さな文字でペルシャ語アラビア語の下に並んで表記されている。コーランは光るような堅牢な紙に美しく印刷がされている。
 ハーフィスの本は装丁は函入りである。コーランをひとまわり小さくしたサイズで厚みがある。この本も光るような堅牢な紙に美しく印刷されている。
 テーブルに乾したイチジク、ピスタチオの実が皿に入れられていて試食できる。干したイチジクを摘まんで食べた。イランからの留学生サラさんによる文化紹介があるそうだが、あいにく不在だった。
 アボルファズル・ジャリリ監督の『トゥルー・ストーリー』は、新作映画の主役に最適な少年を探す冒頭のシーンから始まる。
 冒頭からジャリリ監督と映画制作のスタッフが、この「映画」に登場する。何人も新作映画の主役に適したイメージの少年を選びつづける。
 ある日、一軒のパン屋に寄ってみると、そこで働くサマド・ハニという十五歳の少年に目が留まった。少年に映画に出演してみないか、と尋ねると出演したいと言う。
 こうして、主役に少年サマドを選んだのだが、小さな子供の頃に足に火傷を負ったために時折痛みがあって、医者に診てもらうと悪化しているので手術が必要だと言う。早く手術をしなければ命にも関わる。
 それで、少年の命を優先することになり、新作映画を放棄して、なおかつ映画を作りたいという監督の熱意が少年の手術を撮影して「映画」にすることになるのだった。
 その手術の場面を撮影させてくれと医師に執拗に頼みこむジャリリ監督と医師との議論があり、監督たちスタッフは、少年の母の住んでいるロシア国境に近い町を訪れる。
 少年サマドの生い立ち、故郷の家族の様子などが語られ映される。
 入院する少年、足の手術の一部始終が撮影されるのだった。
 病院で手術を見守る少年サマドの母親や家族・・・。
 幸い手術は成功し無事退院することになる。
 過酷な状況にある子供たちの姿を、リアルにしかも力強く描いている。